英語学習の中でやってくる停滞期のうち、最大のものが4カ月目と9カ月目の伸び悩みです。この2回の停滞期はTORAIZ開始以来一貫してなくならない壁です。私たちはこの2つの停滞期を「4(死)の谷」「9(苦)の谷」と呼んでいます。学習すればするほど結果が伸びるものと思いがちですが、実際にはある程度の学習時間を積み上げたところで停滞期がやってくるわけです。この2回の停滞期はTORAIZ受講生のVERSANTスピーキングテストのスコア推移からも明らかです。

なぜ停滞期がやってくるのでしょうか。それは、脳のワーキングメモリーに理由があります。ワーキングメモリーとは、情報を一時的に記憶して思考や作業をするためのシステムです。私たちが音声認識や意味の理解をしても、それを瞬時に忘れてしまったら会話全体の内容を理解できません。
理解するには、脳に入ってきた単語や意味を一瞬だけ記憶する必要があります。この短期記憶の機能を果たすのがワーキングメモリーですが、「7プラスマイナス2」しか処理できないという性質があります。(「7プラスマイナス2」については「英語のメールは書くことができるけど、スラスラ話せない。なぜ?」をご参照ください)。この限界があるため、特に意識することなく脳が自動的に処理できるもの以外は切り捨てられてしまうのです。
例えば、4カ月目に脳に意味理解の回路ができ始めるものの、自動化まではされていないので、意味理解だけでワーキングメモリーを使ってしまい、話し出すのが遅くなるためスピーキングの「流ちょうさ」はいったん切り捨てられます。
また、9カ月目には構文を自動化できるようになりますが、構文だけで容量を使ってしまい、「発音の正確さ」は切り捨てられてしまいます。
その後、さらに自動化が進めば、ワーキングメモリーの空きも増えて他のことに使えるようになり、プラトーを乗り越えて、流ちょうさやより正確な発音も備えた「話す力」を手に入れられるというわけです。これらは、TORAIZ受講生の「2022年1月版VERSANTスピーキングテストのスコア推移調査(n=10545)」からも分かります。

VERSANTスピーキングテストのスコアは「文章構文」「語彙」「流ちょうさ」「発音」の4つのスキル別スコアに分けられます。これを細かく見ることも大事です。VERSANTスピーキングテストの総合点とはこれらの4つのスキル別スコアの平均です。
スキル別スコアの推移を見ると分かることがあります。それは、伸び悩みの「4(死)の谷」では、「流ちょうさ」が平均を特に引き下げており、「9(苦)の谷」では、「流ちょうさ」ではなく「文章構文」「語彙」「発音」が平均を引き下げています。
つまり、4つのスキルがそろって伸びていくのではなく段階に応じてそれぞれのスキルが関係しながら伸びていき、学習高原を経ながらも1年ほどかかって総合点が上がっていくのです。
ですからVERSANTスピーキングテストの総合点だけを見て、一喜一憂するのはあまり意味がありません。総合点だけでなくスキル別スコアをしっかり分析して、どのようなスキルが身につくタイミングで伸び悩んでいるかを考えてみるといいでしょう。もともとの文法知識や語彙力により、スコア推移のパターンには個人差もあります。

英語学習においては誰にでも伸び悩みがあります。しかし、正しい学習法で必要な時間、学習すれば必ず結果が出ることが調査からも分かっています。Sさん、ここで諦めずしっかり学習を継続してください。
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