三木:英語学習に近いですね。英語学習でもまず具体的な目標を設定し、そこから逆算して学習を組み立てていきます。
須原氏:サッカー選手は食事にも気を使うなど、非常に規律正しい。サッカーは練習時間も短く、だいたい1時間半から2時間ぐらいで集中して練習します。ですからスイッチの切り替えも、ものすごく上手です。そういった点で、一流選手はビジネスパーソンに求められるような基本スキル、仕事上のテクニカルなスキルではなくて生活する上での必要なスキルを持っていると思います。
三木:菅原選手も中山選手も本当に上達が早く、英語のスピーキングテストVERSANTで海外駐在レベルにあっという間に到達しました。サッカー選手の場合、英語を学習することの投資対効果が明確ですし、「英国のプレミアリーグに絶対行きたい」など目的もはっきりしていることが多いと感じます。
須原氏:サッカー選手、スポーツ選手以外の方でも同じだと思います。やはり目的が明確で、それに対して自分自身が本当にコミットするかが大きいですよね。私も以前、英語学習の業界にいたので感じるのですが、ゴールは何ですかというときに、例えば日常会話で不自由しないようにとか、海外旅行でレストランに行った際に不自由なくオーダーしたいとか、映画を字幕なしで見たいといった目的では弱い。絶対に必要でやらなければならない目的が必要ですよね。
三木:そうですね。社会人の場合は仕事で絶対必要と思ったときに上達します。

須原氏:自分のしゃべりたいときにしゃべり、聞きたいときに聞いているうちは英語がうまくなりません。これは私自身の経験でもあります。
私が英語に触れたのは、21歳のときに米コロラド州デンバーに2年間、留学したところからですね。住友商事時代はニューヨークに駐在し、ビジネススクールにも行きました。その後、GABAに5年ほどいました。GABAは変わった会社でインストラクター出身の役員がいました。ですから役員会も英語です。
その後、キンコーズに行ったのですが、このときが一番英語がうまくなりました。キンコーズに行った後、GABA時代の役員らと話すと、私自身は意識していないのに「なんでそんなに英語がうまくなったの?」と言われるのです。英語に触れている時間はそれ以前のほうが長いこともありました。それなのに、キンコーズ時代にうまくなったのは、ボスが米国人で自分のペースで英語を使ってなかったからだと思います。米国の本社との折衝なども全部私がやらなければなりませんでした。やはり必要性なのだと思います。
選手だけでなく指導者、経営もグローバルに
三木:選手にとっては英語学習の必要性や効果ははっきりしていると思います。2021年12月にTORAIZとJFAは「英語サポーター基本契約」を結びました。JFAの職員の方々やサッカー指導者、審判員にとっても英語の必要性は増しているのでしょうか。
須原氏:サッカー界、スポーツ界のグローバル化には3つのステップがあると考えています。1つは選手がグローバルレベルで活躍することです。これについては、かなり進んできています。ちなみに現在、欧州にいる日本人選手の中で日本代表の候補になり得る選手が50人ほどいます。
次が指導者のグローバル化です。日本人の監督がプレミアリーグやドイツのブンデスリーガのクラブを率いるといったことです。そして最後が経営のグローバル化です。Jリーグのクラブの経営が世界水準になる、JFAの経営が世界水準になることです。
ファーストステップについては少しゴールが見えてきましたが、セカンドステップ、サードステップはまだまだという状況です。指導者や経営をグローバル化するために何が必要かというと、やはり言語と本源的なスキルです。
英語とは少し離れてしまいますが、サッカー指導者には資格があり、Jリーグの監督になるにはS級の資格が必要です。各国が似た資格制度を持っていて、欧州サッカー連盟(UEFA)のプロライセンスを持っているとJリーグでも監督になれます。ところが、現状では日本のS級指導者の資格を持っていても欧州でプロチームの監督になることはできません。
日本の指導者資格を取るためのカリキュラムはUEFAのカリキュラムを勉強してデザインされており、非常にリッチです。カリキュラムに互換性はあるのですが、ライセンスに互換性はないのです。
三木:それは交渉で決まるものなのですか。
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