日本企業が脱炭素を進めるには、世界と比べてどんな課題が待ち受けるのか。書籍『カーボン ZERO 気候変動経営』(日本経済新聞出版)を出したEYストラテジー・アンド・コンサルティングへのインタビュー3回目は尾山耕一パートナー、岡村知暁シニアマネージャー、上田郁哉マネージャーに話を聞いた。

欧州では自動車大手ダイムラーが取引先企業に脱炭素を求めるなど、サプライチェーンへの要求が拡大しています。実際に納品する企業は対応できているのでしょうか。

上田郁哉・EYストラテジー・アンド・コンサルティング・マネージャー:自動車業界をはじめ欧州の企業は、カーボンニュートラルを目指す上で2030年や50年の目標値を定めています。その計画達成のため、炭素削減に関するサプライヤーへの要求水準が向上しています。今回の書籍でも紹介したダイムラー社のケースでは、炭素中立な部材・資材を将来的に納入するよう、LOI(Letter of Intent=基本合意書)へのサインを求めています。同社によると既に約2000のサプライヤーの半数が合意しています。もし新規サプライヤーが署名を辞退する場合には、取引しない方針も示しています。

尾山耕一・EYストラテジー・アンド・コンサルティング・パートナー:欧州の鉄鋼業界も分かりやすい事例です。彼らは環境に配慮した「グリーンスチール」への転換を掲げるようになりました。背景には、大口の納入先となっている自動車メーカーからの要請があります。そして欧州は日本よりも、企業群としてつながっていく「エコシステム」を迅速に形成しています。リスクも 1 社で抱え込むのでなく分散し、技術開発と実装を目指しています。

今回の書籍では太陽光発電のコストについて、日本は世界平均より9割高いと指摘されていますね。

上田氏:その差額のうち、最大の要因となっているのは工事費です。工事費の多くは人件費で構成されており、なかなか価格競争が働きにくい状況となっています。それでも徐々に下がってはきましたが、今後も工事費を下げるとしたら2つの方法が考えられます。1つは当然ではありますが、製品設計・設置・施工方法を見直して、現在より手間がかからないようにすることが必要です。例えば、発電パネルの軽量化などは工数削減に直結します。もう1つは、商流の構造を変えることです。メーカーで製造してからユーザーに届くまでの間に二次、三次、四次と長い商流を経るため、その都度マージンが発生しています。

<span class="fontBold">上田郁哉(うえだ・いくや)氏</span><br> グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。再生可能エネルギー機器メーカー、日系シンクタンクなどを経て、2020年からEY ストラテジー・アンド・コンサルティングに参画し現職。(写真:花井智子)
上田郁哉(うえだ・いくや)氏
グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。再生可能エネルギー機器メーカー、日系シンクタンクなどを経て、2020年からEY ストラテジー・アンド・コンサルティングに参画し現職。(写真:花井智子)

日本はこれから、電源構成に占める再エネ比率を4割へ引き上げます。自然エネルギー特有の出力変動も拡大するので、いかに調整力を確保するかが喫緊の課題です。大規模な投資が必要でしょうか。

上田氏:相当大きな投資が必要になるとみていますが、いつ誰が実行するかは関連する政策にも影響を受けます。既存の石炭火力やガス火力が提供しているのと同等程度の能力と規模の調整力を担保するには、代替技術の現在のコストと技術水準で考えると難しい面もあります。(再エネの出力変動を調整すべく)従来の調整方法以外の新たな選択肢としてはデマンド・レスポンス(DR)のような需要側のコントロール技術や、蓄電池、水素の利用・活用などが手段として想定されます。ただし、将来の電源構成に合わせて、その時々で利用できるベストな手段を選択していく必要があります。

岡村知暁・EYストラテジー・アンド・コンサルティング・シニアマネージャー:ただし、電力システムそのものをどう管理していくのか、という考え方によっても必要なコスト規模は異なります。再エネを組み合わせた電力システムを集中管理型にしてしまうと、送配電網の様々な部分で莫大な投資が必要となります。実際には送電網と配電網、電圧帯域などで検討対象とすべきレイヤー(階層)を分ける必要があると考えています。多くの電力を使う産業用から各地域内での電力まで想定したとき、全て大手電力会社が末端まで整備していくには巨額投資となります。このため、50年に向けて個別最適化が求められます。

 日本でエリア間における再エネの電力融通を実施するには、送電容量が細いために今後整備が必要な部分もあり、東西で周波数が違うという性質もあります。(不安定な電源を大量に導入する時代には)集中管理型では限界があり、レイヤーごとに適したシステムを構築していくのが現実的だとみています。実際に太陽光や風力など再エネを増やしていくとき、集中型から分散型システムへの流れは必然的に強まっていくでしょう。

尾山氏:集中型から分散型システムへと移行する過程の中で、(電気事業者が設備形成のために投じた固定費を回収できなくなる)デス・スパイラルと呼ばれる課題が生じます。経済合理性を維持しつつ、いかにしてスムーズに分散型へと移行していくかが求められます。そのために(発電インフラの維持費用を賄うための)容量市場の活用も焦点になっています。

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