温暖化ガスの排出削減が、あらゆる業界で問われる時代になった。EYストラテジー・アンド・コンサルティングは脱炭素の世界的な潮流を取り上げた書籍『カーボンZERO 気候変動経営』(日本経済新聞出版)で、企業が対応するためのポイントを解説している。ここでは環境戦略に精通する執筆チームのインタビューを3回にわたって掲載する。初回は同社パートナーの尾山耕一氏に、脱炭素を起点としたゲームチェンジについて話を聞いた。

<span class="fontBold">尾山耕一(おやま・こういち)氏</span><br />慶應義塾大学大学院、経営管理研究科修士課程を修了(MBA)。大手会計系コンサルティングファームを経て、2019年からEYストラテジー・アンド・コンサルティングに参画し現職。企業のカーボンニュートラル戦略のほか、自動車業界の経営戦略についても詳しい。(写真=花井 智子)
尾山耕一(おやま・こういち)氏
慶應義塾大学大学院、経営管理研究科修士課程を修了(MBA)。大手会計系コンサルティングファームを経て、2019年からEYストラテジー・アンド・コンサルティングに参画し現職。企業のカーボンニュートラル戦略のほか、自動車業界の経営戦略についても詳しい。(写真=花井 智子)

多くの企業が脱炭素の取り組みを進める一方、コストをかけることに戸惑いの声もあります。

尾山耕一・EYストラテジー・アンド・コンサルティング・パートナー:私たちが多くのクライアントの方々と接する中でも、脱炭素について「本当に進めないといけないのでしょうか」といった疑問は頂きます。膨大な投資が必要となる一方、将来のリターンについて筋道を立てるのが難しいというご意見も伺います。利潤を追求する企業としてやむを得ない悩みですが、もはや環境対策を推進しないとビジネスさえ困難になる時代に突入しました。

 (投資先から資金を引き揚げる)ダイベストメントや、脱炭素の取り組みを迫るエンゲージメントなど、投資家は強硬な手段によってもプレッシャーを与えるようになりました。金融機関も、(炭素排出の少ない事業を選別して融資するよう)ポートフォリオの構築を迫られています。

米アップルも2030年までに「サプライチェーンを100%、カーボンニュートラルにする」と表明しています。日本企業にも波及するのでしょうか。

尾山氏:製品価値を生み出していくバリューチェーンの中で、部材を供給するサプライヤーも脱炭素への対応が不可欠となっています。気候変動がもたらす熱波や水害は既に激甚化しており、物理的なリスクとして世界各地で目に見えています。グローバル企業が今後の対策を迫られるのは必然で、その供給網に入っている日本企業も影響を受けます。

 さらに、特定の企業の調達網だけではなくなります。今後、消費者は脱炭素に貢献している製品やサービスを志向していくでしょう。1980〜95年に生まれたミレニアル世代、さらに(90年代半ば以降に生まれた)Z世代は、それより上の世代と比べて環境に対する意識が高い特徴があります。企業の取り組みが遅れると、競争上不利になっていきます。

EYストラテジー・アンド・コンサルティングのパートナーらが執筆した「カーボンZERO 気候変動経営」
EYストラテジー・アンド・コンサルティングのパートナーらが執筆した「カーボンZERO 気候変動経営」

先進各国は温暖化について「1.5度までに抑える」との目標を掲げるようになりました。企業活動にはどのような影響があるのでしょうか。

尾山氏:パリ協定が2015年に採択された時点では、「1.5度」は努力目標との位置付けでした。しかし、18年にIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)が「1.5度特別報告書」を出しました。現在では、1.5度までに抑えなければ人類や地球に不可逆的なダメージがもたらされることがコンセンサス(共通理解)になっています。このため、菅(義偉)首相も宣言した50年のカーボンニュートラルを各国が目指す流れがあります。これを達成するための政策が導入されていき、企業も対策が必要となります。

 さまざまな企業の方と議論していると、日本が中間目標としている30年時点での炭素46%減と同等の水準についても、「社内で削減のめどが立っていない」というケースをよく聞きます。しかし、自社のみで突き進んでいくというより、経済社会全体での協力が欠かせません。水素の活用や、二酸化炭素を大気中で回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)など、新技術の実装コストを低減させていくには規模が必要です。より多くの企業の参画によって低コスト化を実現できれば、経済性とのトレードオフの関係も解消に向かいます。

 また、(温暖化ガス排出量算定の基準である)GHGプロトコルのスコープ3に対応すべく、二酸化炭素削減への期待も高まっています。やはり自社だけでなく、バリューチェーン全体での協力関係を構築していくべきです。

炭素の価格付け、世界で進行

法人税の最低税率で先進各国が合意したように、炭素でも規制を嫌って拠点を移すリーケージを防ぐべく、価格付けのあり方で国際社会がルールを定めるのでしょうか。国際通貨基金(IMF)はカーボンプライシング(CP)について、最低価格を定めるよう求めています。

尾山氏:欧州が模索している国境炭素税を含めて、炭素に価格を付けるという方向性が強まっています。CPの手段として炭素税なのか炭素市場なのか、シナリオは複数あります。いずれにしても、炭素に経済価値が付与されることは高い蓋然(がいぜん)性を持っています。そこで現時点で、社内でCP制度(インターナル・カーボンプライシング)を導入することは重要な取り組みです。

 企業内でCPを導入する場合、臨機応変な価格設定によって戦略的な企業行動が可能です。より脱炭素に向けてドライブしたい場合は、プライスを高くすると排出量を減らすインセンティブが強く働きます。一方、低価格に設定すれば逆に向かいます。経営層にとって、各部門を動かすためのレバーとして炭素価格を活用できます。社内の部門間での内部取引により、全社的な脱炭素の原資を獲得していくことになります。経営資源の特定事業への集中のような不均衡の解消にもつながるでしょう。

続きを読む 2/2 情報開示、まずTCFD対応を

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