就職や転職、あるいは職場での働き方をアドバイスする「キャリアアドバイザー」は本当に役立つのだろうか。経営学の最前線の研究は、アドバイザーのネガティブなフィードバックが「よくない影響を与える」可能性があることを示す。

キャリアアドバイザーとどう付き合うべきか(写真:Shutterstock)
キャリアアドバイザーとどう付き合うべきか(写真:Shutterstock)

 キャリアについてのアドバイスを専門に行う人材について、厚生労働省は「キャリアコンサルタント」を、2024年度末までに10万人にする計画を打ち出している。16年に国家資格となってから毎年登録者は増加しており、21年度の時点で約6万人のキャリアコンサルタントが登録されている。最近では、人材派遣会社の社員や個人事業主だけではなく、一般的な企業の人事部で働く社員の間でも資格の取得が進んでいる。

 しかし当然のことだが、資格を取ったからといって、キャリアに対して効果的なアドバイスができるとは限らない。最新の経営学によれば、キャリアのアドバイスにおいて重要なのがフィードバックの在り方だ。最も難しく、やり方を間違えると好ましくない影響をクライエント(相談者)に与えかねないのが、ネガティブなフィードバックだ。

 クライエントは、キャリアについて悩んでいるからこそアドバイスを求めている。もしその悩みが「仕事に対する考え方」などによって生じているのであれば、アドバイスに沿って修正する必要があるだろう。

 ただし、そのアドバイスは、クライエントの培ってきた価値観や人生、アイデンティティーを否定する可能性がある。このため、面と向かって「分かっていても実行できていないこと」を言われた場合には気落ちしたり、反発を感じたりすることもある。すなわち、クライエントは「悩んでいるから話を聞いてほしい」と思っているものの、「解決のためのアドバイスを受け止めるとは限らない」のだ。

 中国・南京師範大学のシー・フゥ氏らは19年の論文において、キャリアに対するネガティブなフィードバックが持つ影響力について調査。分析の結果、「現状のキャリアに対する考え方や選択が間違っている」というフィードバックを相手に伝えることは、「自分の力でキャリアを切り開くことなんてできない」という後ろ向きの気持ちを誘発。キャリアを前に進めることを諦めさせるという事実を明らかにした。特に、「親の学歴や仕事上の地位が高い人」にとって、ネガティブなフィードバックは「気持ちをくじくおそれ」を強く持っていた。

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