新型コロナウイルス流行が生み出した「不確実性」の中で、PDCAが機能不全に陥り、逆に足を引っ張っているかのように感じられる会社は少なくなかった。どこに課題があったのだろうか。最新の3つの論文に解決のヒントがある。

PDCAは導入していない会社を見つけることが困難なほど、企業にとって普遍的な仕組みの1つとなっている。目標と計画を設定(Plan)し、その内容を実行(Do)し、目標達成の程度や問題の検証や分析(Check)を行い、今後の対策と改善を検討(Action)した上で、次の期に向けて新たな目標と計画を立てる(Plan)。このサイクルを回すことは、企業活動の最も基本となるプロセスだ。
新型コロナウイルス流行が生み出した「不確実性」の中で、PDCAが機能不全に陥った会社は少なくない。平時でも、未達の目標に「しょうがない」「当たり前だ」という諦めを感じながら、原因分析という名の「言い訳づくり」のための書類作成に多くの時間を浪費させられている人も多いのではないか。
最近、「組織レジリエンス(回復力)」や「チーム・レジリエンス」の重要性が指摘され始めているが、本来PDCAは、組織やチームのレジリエンスを支えるプロセスそのものであるはずだ。計画を実行する中で、予測できない問題にさらされたならば、その問題の検証と分析を速やかに行い、それを踏まえた改善案を反映させた計画をすぐに実行する。このようなPDCAのサイクルを迅速に回すことで、まさに強固な復帰力を持つ組織やチームをつくることができるはずだ。
高いレジリエンスが求められる状況に置かれたチームを調査対象とする経営学の最新の研究成果が多くのヒントを与えてくれる。
カナダのトロント大学のマーリス・クリスチャンソンは2019年、予測していなかった問題に対処しようとする医療チームについての論文を発表している。
Check→Actionの課題:問題対処ではなく仮説検証を
クリスチャンソンは「呼吸困難となった子供に対処するシミュレーションに参加した医療チーム」を分析。このシミュレーションでは、呼吸困難の症状が刻々と悪化し、最終的には呼吸が停止する。一連のプロセスの中では、「実は人工呼吸器が故障していた」という、「予想していない事実」に気づくことが鍵となっている。論文によると19のチームの中で、8チームはすぐにその事実に気づき、6チームは初期の段階では問題を抱えつつも最終的に解決できた。しかし、残りの5チームは最後までその事実に気づかなかった。
いずれのチームも、「人工呼吸器を適切に使っていないのではないか」「のどに異物があるのではないか」といった仮説を次々に構築しながら、状況に対処してはいた。成功したチームと失敗したチームの明暗を分けたのは、「次々に生み出された仮説を検証することに対して、こだわり続けられたどうか」だ。
失敗したチームは、仮説検証よりも、目の前で生じる問題の対処や処置を優先させていた。
例えば、失敗したあるチームは、初期の段階で「人工呼吸器のマスクが壊れていないか」という仮説を構築できていたにもかかわらず、それを検証する前に「人工呼吸器を患者につける」という煩雑な作業へ全員がフォーカスしていた。その結果、患者の容体が悪化し心停止状態に陥る中、チームの意識は仮説検証ではなく、問題の対処へと完全に向いた。
クリスチャンソンの研究成果をPDCAのコンセプトにあてはめるならば、この事例は問題を検討し対策を考える「Check→Action」のステップに関わるものだといえるだろう。すなわち、Checkを「仮説の検証」ではなく「問題の把握」として捉え、Actionを「対策と改善」でなく「対処」と考えたために、場当たり的な問題の処理に翻弄され、PDCAを「学び」のためのツールとして活用できなくなっていた。
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