インターネット上のレビューやSNS(交流サイト)の反応に企業はどう対応すべきか。経営学の世界ではこのところ実証研究が急速に進んでおり、データに裏付けられた解決策から学べることは多い。

インターネット上のレビューが電話やメールと大きく異なるのは、「会社と顧客とのやりとりなどが第3者にも直接見える」点にある。企業はレビューやコメントを残した顧客だけでなく、そのやりとりを見ている人に対する影響についても考慮した上で、対応しなくてはならない。
ネガティブなレビューへの反応が本質的に持つジレンマ
米国の南カリフォルニア大学のダビデ・プロセルピオらは2017年の論文において、旅行サイトのトリップアドバイザー上のレビューを分析。顧客のレビューにホテルが返信することによって、評価の平均スコアが0.1ポイント改善するという事実を明らかにした。小さな値に見えるかもしれないが、評価の違いによって例えば、「2.5星」ランクだったホテルが「3星」ランクに「昇格」することもある以上、ホテルは無視できないだろう。
また米テンプル大学のヤン・ワンらは18年の論文においてデータ分析に基づき、ホテルの評価を高めるためには、「特にネガティブなレビューに対して返信」すべきであり、その際には「定型文をコピー&ペーストしたかのような文章ではなく、レビューの内容にカスタマイズした文章にすることが求められる」ことを明らかにした。その分、企業は手間がかかるが、手を抜くべきでない。一方、ポジティブなレビューに対する返信は、「ホテルにとって好ましくない影響を与えうる」という。やりとりを見ている人々に「押し付けがましい」と感じられてしまうためだ。
プロセルピオやワンの研究から分かるのは、顧客のネガティブなコメントやレビューにしっかり回答する会社は「私たちの声に耳を傾けてくれる会社だ」「指摘した問題に向き合ってくれる会社だ」という好ましい印象を作り出せるということだ。
一方、こうした印象の変化が逆にネガティブなレビューを誘発するリスクが高まることを指摘した研究も少なくない。
まずはウェブ予約ページなどの口コミについて考えてみよう。米エール大学のジュディス・シュヴァリエらは18年の論文において、ホテルが「顧客のネガティブなレビューに返信」することで評価の平均スコアが0.14ポイント悪化することを明らかにした。「評価を高めるためには特にネガティブなレビューに対して返信」すべきだというワンの研究と矛盾するように見えるが、これは次のように考えると分かりやすい。
ネガティブなレビューへの返信はいったん評価を上げるが、そのやりとりは「不満があってもレビューを投稿していなかった人」も見ており、こうした人が「改善点を伝えれば耳を傾け実際に対処してくれる」と考え、製品やサービスの問題点を指摘するネガティブなレビューを投稿。結果、ウェブページ上の評価の平均スコアが悪化するのだ。ネガティブなレビューやコメントに真摯に返信しようとする会社はこの事実に直面することを覚悟しなければならない。だからといって、ネガティブなコメントを放置すると「顧客の声に耳を傾けてくれる会社」というイメージを作り上げる機会を失ってしまうことになる。ではどうすべきか。
Powered by リゾーム?