サプライヤーや顧客との価格や納期などの交渉から、社内での予算交渉、仕事を任せたい側と逃げたい側との間で生じる「交渉」といった職場のやりとりまで、利害の対立がある限り、そこは交渉の場となる。最近では新型コロナウイルスの感染拡大によって取引関係や仕事内容が大きく変わるケースもあり、対立を効果的に解消できるスキルを身に付ける必要性がますます高まっている。

交渉学の重要性がますます高まっている(イラスト:高谷まちこ)

 ビジネスの世界は交渉であふれている。

 一方で「日本人は交渉が苦手である」という声をしばしば耳にする。交渉というストレスフルな場から早く逃げ出したいという気持ちに後押しされ、ついつい相手に譲ってしまった経験はないだろうか。その背後に集団主義や明確な主張を嫌う文化があるのは間違いなく、そこでの交渉とは「和を乱すことを避けるために相手に譲る」か、「関係を悪化させるリスクを負った上で和を乱す」か、という選択の問題となっている。

 しかし、もっと深刻なのは国内では多くのビジネスパーソンが交渉を学ぶ機会を与えられていない点にある。現在勤めている大学の場合、「コンフリクトマネジメント」という名の講義が公式に新設され、交渉学について私が教え始めたのは2020年になってからである。

 世界の経営学を見渡せば、交渉を扱う学問領域=交渉学は一大領域となっている。直感や経験に基づき交渉を行うことの問題を指摘する実証研究が数多く蓄積されており、基礎的なフレームワークや理論が存在する。エビデンスに裏打ちされた研究成果を応用できれば、相手との間で健全な関係を維持しながら、自分の利益を満たす形で交渉を進められるようになるはずだ。それは日本人の交渉に対する苦手意識の克服に貢献するだろう。最新の経営学の実証研究から交渉について、目立った成果を見ていこう。

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