営業やプレゼンテーション、上司との面談、就職活動といった場において、「相手にどんな印象を与えるか」の研究は世界の経営学において急速に進んでいるが、日本にはまだ知られない内容が多い。今回は「印象のマネジメント」の最前線を紹介しよう。

「上司に合わせればいい」わけではない(イラスト:高谷まちこ)
「上司に合わせればいい」わけではない(イラスト:高谷まちこ)

 米ワシントン大学のゾーイ・バースネスらは、2005年の論文で「テレワークでは上司との接点が大きく減るため、限られた時間の中で上司に好印象を与えようと部下は必死になる」という分析結果を示している。この結果について、コロナ禍のテレワークの普及によって、「確かにそうだ」とうなずく人は多いのではないか。ZOOM等のウェブ会議の場において、「大げさに成果をアピールする」「雑談と称して上司へのおべっかに多くの時間を費やす」。そんな姿が目立つようになってきたと聞く。

 「仕事ができるが印象の悪い人」より「仕事はそれほどできないが、良い印象を与えられる人」のほうが実際に高い評価を得ることがある以上、「自分のイメージをよくしたい」と思う人が増えるのは、ある意味で当然といえる。

 それでも印象のマネジメントを考える人にぜひ知っておいてほしいことがある。それは深く考えないまま印象のマネジメントを行うのはむしろ印象を悪化させるリスクが高いことだ。

 例えばあなたがちょっとした思いつきで「この言葉ならばAさんは喜ぶだろう」と考えて、思いついた耳当たりの良い言葉をかけたとする。これによってAさんがあなたに良い印象を持てば問題ないが、必ずしも思惑通りになるとは限らない。むしろ、思惑通りにならないことのほうが多い。

 大変なのはここからだ。あなたの思惑が外れたからといって、Aさんはあなたにわざわざ「印象のマネジメントは失敗しました」と伝えることはない。むしろ「ありがとうございます」と取り繕いつつ、「印象を打算的に操作しようとする人物だ」と捉えて、心の中であなたへの評価を下げる。

 にもかかわらず、あなたはといえば、Aさんからの「ありがとうございます」が表面的な反応だと気づかないまま「自分の試みが成功した」と思いがちだ。「相手に与える自分の印象が高まった」はあなたの勘違いで、むしろ「不快な気持ちにさせた」にもかかわらず、そのことに気づかないまま同じパターンを繰り返す。経験に基づいて印象のマネジメントを試みたとき、こうしたパターンに陥りがちになる。

 だからこそ印象マネジメントの力を磨くには、主観的な経験則ではなく、最新のデータや事実に裏打ちされた実証研究の成果を生かすことが重要になる。

 まず知ってほしいのは、職場における印象のマネジメントには大きく2つのパターンがあることだ。それは「まじめな人」「いい人」を伝えたい場合と、「できる人」を伝えたいパターンだ。

「できる人」アピールは逆効果

 相手に「まじめな人」という印象を与えるためには、例えば言われた範囲を超えて自主的に働いたという事実や、顧客のために自分の生活の一部を犠牲にしたという事実をアピールするような行動が考えられる。言ってみれば、身を粉にして会社や職場に尽くす印象のマネジメントである。

 一方、「できる人」と思われるための印象マネジメントでは、自分が行った仕事の成果をアピールしたり、仕事のプロセスでの自分の貢献の大きさについて強調したりすることになる。同じ印象のマネジメントであっても、目指す方向やそのための行動はまったく違う。

 そしてここからが重要なのだが、職場における印象のマネジメントはあくまでも「いい人」や「まじめな人」という印象を与えることに集中すべきだという結果が、数々の実証研究から明らかになっている。逆に言えば、世界の経営学の最前線の知見によれば、「できる人」と思われるための印象のマネジメントはできる限り避けるべきなのだ。

続きを読む 2/5 「攻め」と「守り」のバランス

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