経営学の最前線の知見を、企業が抱えるさまざまな課題の解決に生かすにはどうすべきか。気鋭の若手研究者がさまざまな論文を読み解きながら、まだあまり知られていない「経営学の使い方」を実践的に探る。

「職場のコミュニケーションが大切」と聞いて、否定する人はまずいないが、問題はそのあり方だ(イラスト:高谷まちこ)
「職場のコミュニケーションが大切」と聞いて、否定する人はまずいないが、問題はそのあり方だ(イラスト:高谷まちこ)

 「職場のコミュニケーションが大切」と聞いて、否定する人はまずいないはずだ。最近はコロナ禍でのリモート勤務の広がりによって、コミュニケーションの悩みを抱える人も増加。職場のコミュニケーションはますます重要なテーマとなっている。

 職場のコミュニケーションにかかわる研究は欧米では一大領域となっており、いろいろな成果が古くから知られる。最近では、例えば米アーカンソー大学のマイケル・ウィルモットらの研究が注目される。2019年の論文では、メタ分析の結果によって「外向的な人ほどモチベーションやリーダーシップといったパフォーマンスに関わる要素が高い水準にあるだけではなく、採用での評価や上司からの評価が高まり、昇進や昇給しやすくなる」ことを明らかにしている。これは「コミュ力」は企業で働く人が力を発揮する上で、重要なファクターであることを示す。

 実際、企業ではコミュニケーションを高めるために1on1のミーティングなど多様な仕組みの導入が進むし、それによって効果を上げている企業も存在する。それでも私に言わせれば、職場の課題がコミュニケーションによって何もかも解決するかのような言説が目立つ。「コミュニケーション特効薬仮説」といっていいほどだが、それほど単純な話ではない。職場のコミュニケーションについて、世界の経営学では、はるかに緻密に研究が進む。上司と部下のコミュニケーションのあり方から考えてみよう。

 よくある誤解は、コミュニーケーションは増やすほどいいとする見方だ。例えば「面談を期首や期末しか行っていないから上司と部下はすれ違う。面談の機会をもっと増やし、上司と部下がオープンに話す場を増やせば増やすほど、1つのチームとして結束力が高まる」といった主張がこれに当たる。一見すると説得力があるかもしれないが、少し考えればおかしいことに気づくはずだ。上司と部下の関係が円滑ならば問題ないのだろうが、部下から見て上司が「期首や期末に会うだけでも十分に苦痛を感じている」タイプの場合はどうだろうか。面談の回数を毎週1回に増やせば、その上司を好きになるだろうか。そんなはずはなく、むしろ想像するだけで心が痛むだろう。

 コミュニケーションさえあれば、職場のさまざまな課題を解決できるほど単純ではない。このことは、企業に勤務したことのある人ならばむしろ実感を持って理解できるはずだ。うまくいかない理由は上司と部下のコミュ力にギャップがあるケースもあるが、もう一段深いところから考えてみよう。そもそも上司と部下は1on1で話すとき、「本気で」「本音で」話すことが本当にできるのだろうか。大半の場合、部下はその場を曖昧にやりくりするだけであり、1on1が終わった後には「意味があったのだろうか」とぼやきつつ、何ともスッキリしない気持ちで仕事や職場へと戻っていくのではないか。

 では、どうしたら上司と部下のコミュニケーションが円滑になるのか。最新の経営学では、コミュニケーションをめぐる一歩進んだ研究が次々に現れており、その最前線をぜひここで紹介したい。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り6255文字 / 全文7740文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「現場を変える・経営理論の最前線」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。