新型コロナウイルス禍でのリモートワーク拡大の中、企業が社員を「監視」する仕組みの導入が進んでいる。だが、仕組みだけつくってもうまくいかない。その理由と解決のヒントを最新の経営学の成果から探ってみよう。

「監視」を強めるだけではうまくいかない(イラスト:高谷まちこ)
「監視」を強めるだけではうまくいかない(イラスト:高谷まちこ)

 オミクロン型による新型コロナウイルスの感染再拡大によってリモートワークが広がる中、職場や社員に対する事実上の「監視」を強化する企業が増えている。背景にあるのは「在宅勤務で社員は仕事を効率的・効果的に行っているのだろうか」というマネジメント層の不安だ。業務内容の報告共有のツールやパソコンの稼働状況の可視化など、多様な監視機能を盛り込んだシステムが開発され、その導入が進んでいる。

 「監視」を強固に支えるのがテクノロジーの発展だ。高度なセンサーによって社員の行動に関する膨大なデータをリアルタイムに収集・分析することが可能となっているほか、AI(人工知能)を活用することで感情についても企業はチェックできるようになってきた。

 業務効率の向上に役立つようにも思えるが、監視の強化には課題もある。多くの人が想像するように、いきすぎた監視は職場から熱意と創造性を奪いかねない。このため、企業によっては「監視のない自由な職場」によって「社員が高いエンゲージメントを持って、新たな発想とアイデアを生み出す」工夫を取り入れるところもある。よく知られるのは米グーグルの「20%ルール」。社員は個人的に関心のあるプロジェクトに対して勤務時間の20%を割くことが認められ、ここでの行動は監視の対象から外される。Gmail(ジーメール)など主力プロダクトの多くは20%ルールの下で生み出された。

 それでも「自由を与えられた社員やチームが全ての勤務時間を顧客や社会の価値創出に使ってくれる」と心から信じられる企業は限られている。グーグルにおいてすら、20%ルールに対して社内には賛否両論があるといわれる。多くの企業は、たとえデメリットがあるとしても、社員を監視する取り組み自体を続ける必要があると捉えている。

 では、監視がどうしても持ってしまう「ネガティブな要素」をどうすれば緩和できるだろうか。経営学における近年の研究成果から、いくつかの重要なヒントを得ることができる。

 そのためにはまず「そもそも、監視が職場や社員にもたらす問題とは何か」から検討してみよう。

 米ボストン大学のミシェル・アンテビーらは、2018年の論文において、米国の空港の保安検査場を対象に調査を行った。調査を行った当時、保安検査場における荷物の窃盗が大きな問題となっており、その犯人が検査員ではないかとみられていた。米国運輸保安庁(TSA)の調査によると、実際には検査員の窃盗の数自体は実際のところわずかだったものの、メディアなどにおいて大きく扱われたこともあり、運輸保安庁は対応が求められた。

 このとき、運輸保安庁が行ったのが、現場を監視する大量のビデオカメラの設置だ。その結果、どうなったのか。

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