夢占いの持つ効果は実証されている

 最後に、睡眠に関わる最先端の研究として、夢占いについての研究を紹介しよう。「夢の内容によって、現在の心理状態や未来を占えるかどうか」は、このコラムの範囲を超えている。しかし、「その日見た夢の意味について考えることが持つ好ましい効果」については、実証的な研究が行われている。

 米ノースカロライナ大学のキャッシャー・ベリンダ氏らは、近く学術誌(ジャーナル)に掲載予定の最新論⽂において、「朝起きた時に、自分の見た夢に対する意味について前向きに思いを巡らせた人は、その日の仕事において高いレジリエンス(ストレスや困難に対する回復力)を発揮でき、目標達成に向けて多くの努力を投入できるようになる」ことを3つの調査を通して明らかにした。

 人は、夢の意味について思いを巡らせる中で、それまで明確に意識できていなかった「世界や自分自身に対するものの見方」に気づくことがある。それによって、「なんて狭い考え方の中で、これまで生きていたのだろうか」、「こんな大切な気持ちを、自分は抑え込んできたのか」といった感覚を得られる。ベリンダ氏らは、この感覚を「awe(畏敬や畏怖。自然の雄大さを感じた時に人生観や世界観が変わる経験などを意味する)」と呼び、その感覚によって「小さなことでクヨクヨしない態度」、すなわちレジリエンスを獲得できるようになるという分析結果を示した。

 「夢の神秘性」に懐疑的な人は少なくないだろう(私もその1人だ)。しかし、「夢が暗示するものによって、大きな困難を乗り越えられたケース」は、私たちの知る歴史の逸話の中にあふれている。例えば、マケドニアのアレクサンドロス大王は、現在のレバノンにあるテュロスの攻略にてこずっていた際、ギリシャ神話の半神サテュロスの夢を見たという。夢占い師のアリスタンドロスが、サテュロスの夢をギリシャ語で”sa Tyros(あなたのテュロス)”を意味すると解釈して伝えたところ、それに勇気づけられたアレクサンドロス大王はその直後テュロスを陥落させた。

 最新の研究や歴史上の逸話が示すように、寝ている間に見る夢には、少なくとも、困難や逆境に向かって人を奮い立たせる力はあるようだ。ビジネスの現場においても、この力を生かすことに価値があるのではないだろうか。

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