自動車産業が元気なら当面やっていける

水野氏:国際競争力が求められる日本企業はせいぜい全体の1%程度でしょう。かつて日本の輸出を支えた電機産業はすでに国際競争力を失っています。残る主要な輸出産業は自動車です。自動車産業の国際競争力さえ守って、原油など鉱物性燃料を購入する外貨を稼げる状態にしておけばよいのではないでしょうか。ただし、いつまでも自動車産業に依存するのは危険ですから、鉱物性燃料の輸入代金を減らすために再生可能エネルギーに切り替えていくべきです。

 そのほかの日本企業は日本人向けに商品やサービスを供給しておけば大丈夫です。日本人はそもそも外国製品をそれほど買いませんし、国内市場で外国企業と競合することはあまりありません。

そうは言っても日本の人口が減少し続ければ国内市場が縮小して、多くの企業は生き残れないのでは?

水野氏:いいえ。そのうち子育てしやすい環境が回復し、適度なところで人口減に歯止めがかかります。

どういうことでしょう。

水野氏:これまで経済成長の過程で、地方から都市部に人口が移りました。大勢の従業員が決まった時間に都心のオフィスに集まれるようになるなど、人口の密集によって効率的な経済活動が可能となりました。

 一方で人々の暮らしが犠牲になりました。都市部では不動産をはじめとする物価が上がり、共働きでないと生活費を賄うのが難しくなっています。そのため経済的な理由から出産をためらう夫婦が増えました。代表例が東京で、出生率は全国で最も低くなっています。

 ところが今後、人口が減少していけば、都市部の物価は下がり、保育所の不足も解消されていくでしょう。隣の空き家の土地を利用して、より広い庭のある戸建て住宅に住めるようになるかもしれません。子育てしやすい環境が整い、人口減がストップします。戦後の異常な人口増が始まる前の水準である7000万人程度で安定するとみています。

 こうして日本は人口も経済も横ばいで推移するポスト近代への移行が完了します。それによって日本の国際的な発言力が衰えるわけではありません。日本と国土の面積および人口が大して変わらないドイツ(人口8000万強)や英国(7000万弱)と同等の存在感を打ち出していけます。

解説とアンケート

 前回お話を聞いたジム・ロジャーズさんは、若いころに設立したヘッジファンドを通じて、10年間で40倍以上という驚異的なリターンをたたき出し、「伝説の投資家」となりました。「資本を投じて利潤が得られた『成長の時代』は終わろうとしている」とする水野和夫さんら経済成長不要論者の主張に、成長の時代の申し子であるロジャーズさんが反発するのも無理からぬことです。

 果たして本当に世界経済は成長の限界に達し、歴史的な転換点に差し掛かっているのでしょうか。そうだとすれば、日本は未知の時代への移行を試みる最初の国になるはずです。ただしファーストペンギンにはリスクが伴います。ロジャーズさんの言う通り、日本が没落する可能性は否定できません。あるいは水野さんの言う通り「理想の社会」を謳歌できるのでしょうか。

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