水野氏:生活水準が下がるのではありません。企業に乗せられていた消費者がサービスや商品の過剰な購入をやめ、正常な生活様式に戻るのです。例えばファストファッションなどの登場で、衣料品の価格が下がりました。これによって人々は本来Tシャツを1枚買えばいいところ、余計にもう1枚買うといったことが行われています。
日本全体で年間に購入される衣料品が仮に30億点とすると、日本人1人当たり年25点を買っている計算になります。3人家族なら年75点、10年間に直すと一家で合計750点です。あきらかに購入しすぎか、あるいはそこまで購入していない場合、もっとたくさん廃棄していることになります。購入しすぎなのでしたら、着ることなくタンスに眠っている衣料品はたくさんあるのではないでしょうか。企業が成長を追求しなくなると、こうした過剰な消費が是正されていくとみています。
企業側にしても過剰な生産をやめれば、長時間労働が是正され、従業員は人間にとって最も希少な自由時間を取り戻すことができます。生産は必ず所得となりますので、必要なものだけを作っておけば、所得が減っても生活に困りません。

経済成長しなくてよいとなると、移民を受け入れるなどしてわざわざ人口を増やす必要もなくなりますね。
水野氏:はい。戦後、日本を含め各国の人口も異常な速さで増えたので、これからは減ってしかるべきです。
財政破綻を回避する処方箋
日本の人口が減って税収が減れば、政府は借金を返せなくなり、財政破綻しませんか?
水野氏:財政破綻を回避するためには約1000兆円に上る国の借金、つまり国債の発行残高をこれ以上増やさないことが重要となります。2001年度末に392兆円だった普通国債の残高は、2020年度末に985兆円となる見込みです。この20年間で毎年約30兆円ずつ借金を膨らませています。財政の持続性を維持するには、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を均衡させることです。PBは国債費を除いた一般歳出と税収の差です。毎年の社会保障費など政府の支出を税収で賄えば、あとは過去の借金の償還費と利払い費(両者を合わせて国債費)が国債発行額となります。
ゼロ金利が続いていますので、いずれ、利払い費はゼロになります。そうすれば、PBはマイナス15兆円程度(2001~2019年度の平均)ですから、法人所得税と消費税の2つで7.5兆円ずつ負担するとすれば、消費税をあと3ポイント引き上げて13%にすれば、PBが均衡し、借金を増やさずに済むようになるでしょう。
日本政府に対する借金の貸し手、つまり国債の購入者はほとんどが日本人です。日本の家計と企業で貯蓄超過(資金余剰)は毎年33兆円(2001~2019年度の平均)ですから、30兆円前後毎年発行される国債は日本人だけで十分に購入が可能です。国債が満期を迎えても、同じ額の国債を新たに発行して返済に充てればいいだけです。お金を返す相手も、新たに貸してくれる相手も日本人です。日本人を相手に1000兆円の借り換えを永遠に繰り返せばいいわけです。金利はゼロですので、利子で借金が膨らんでいくこともありません。
これ以上国の借金を増やさないためには、消費税を上げるだけでなく、国の歳出が増えないようにする必要もありそうです。
水野氏:そうです。閑古鳥が鳴く地方空港がたくさんあるように、日本中に資本があり余っています。空港やリニア新幹線、高速道路や橋などはこれ以上造る必要がありません。現在ある施設の維持に専念すれば歳出はずいぶん抑えられます。
政府だけではありません。民間もこれからは新規の投資をあまりしなくてもよいでしょう。すでに日本企業の新規投資は減っています。全体でみた年間の設備投資額は約90兆円ですが、そのうち新規投資は10兆円程度しかありません。残りの80兆円は既存設備の維持費に充てられています。
今後、政府や企業がどうしても新規投資しなければならない分野は正直あまり思いつきません。再生可能エネルギーぐらいでしょうか。
投資額が減れば日本の国際競争力が落ちて、企業がバタバタ倒産しませんか?
Powered by リゾーム?