杭州で生まれ観光客相手に独学で英語を身につけた少年は、いかにして中国経済を変える存在になったのか。そして改革開放から統制強化へとシフトしつつある中国政府となぜ衝突することになったのか。これまで見てきたように、微妙なバランスで奇跡的な成長を遂げてきたアリババはこの先、どのような運命をたどるのだろうか。

「1カ月以内に支付宝(アリペイ)を始めよう! 誰かが牢屋に行く必要があれば私が行くから、君が続けるんだ。もし君が牢屋に入ったら次の人だ」
2004年、アリババはオンライン決済手段としてアリペイを実現しようとしたが、どの金融機関からも賛同を得られずプロジェクトは宙に浮いていた。スイスで世界経済フォーラムのダボス会議に出席していたジャック・マー氏は、そこで行われたリーダーの責任を巡る議論に突き動かされ、いてもたってもいられなくなった。アリペイを始めるよう、チームに電話して発したのが冒頭の言葉だ。
結局、誰も牢屋に行くことはなかった。アリペイはその後、QRコード決済などの様々な機能を追加し、中国人の生活を劇的に変え、なくてはならない決済ツールとしての位置づけを確かなものにしていく。
「アリババには3つの目標がある。102年続く企業にする。中国の中小企業にサービスを提供する。世界最大のEC企業になる」。マー氏はかつてこう語ったことがある。
102年という半端な数字なのは、1999年設立のアリババが3世紀にまたがる企業となることを意味する。同社はこの3つの目標に向けて、着々と歩を進めているように見えた。
「理想に燃える情熱家」「中国の改革開放政策の下で生まれた最高の起業家の一人」。マー氏はこのように称されることもある。そして傘下の金融会社、アント・グループの史上最大の上場目前で起きた舌禍。これらはどう結びつくのか。マー氏の歩んできた道のりを振り返りながら考えていこう。
運命変えたネットとの出合い
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