高砂電気工業は無重力下でビールを醸造する技術を開発している
高砂電気工業は無重力下でビールを醸造する技術を開発している

 参加企業の1つ、工業用小型ポンプ製造の高砂電気工業(名古屋市)は、宇宙でビールを醸造する装置の開発に挑む。JAXA向けに開発した細胞培養液交換機を参考に、麦汁やモルトをかき混ぜる仕組みを設計した。地上なら水温の上昇に伴い、放っておいても対流が生じて循環が起きるが、無重力下では起きない。そこで、得意とするポンプとバルブを使って強制的に流れを起こす。発酵時に発生する二酸化炭素を抜く機構にもバルブを活用する。

 高砂電気工業が宇宙との関わりを持つようになったのは09年。突然、米航空宇宙局(NASA)から届いた、「ポンプを使いたいので、見積もりを出してくれ」とのメールだった。15年には、宇宙空間で使う液晶ディスプレー開発のため、国際宇宙ステーションで単層液晶を形成する実験に同社の超小型ポンプが活用された。その後、JAXA向けの実験装置や、宇宙ベンチャーが造る人工衛星向けの部品に採用されるなど、実績を積んできた。

 宇宙と接しているうちに、超小型ポンプは積み荷を小さくしたい宇宙向きであり、「流体制御技術は、人工肉の培養や飲料水の循環・再利用など宇宙で人が暮らすのに必要になる」(浅井直也会長)ことに気付いた。宇宙でのビール醸造自体は、耳目を集めて流体制御のノウハウを求める企業との連携を深めようという狙いがある。

 SPACE FOODSPHEREも、宇宙という閉鎖空間で循環型の食料開発が進めば、人口爆発で食糧難が危惧される地上でも活用できると期待する。宇宙だけで稼ぐこと、異業種参入企業が宇宙領域で事業化することのハードルはまだ高い。ただ、極限空間での挑戦によってイノベーションを起こし、地上へのスピンオフ(技術移転)につなげると考えることができれば、挑戦する価値は大きい。

 宇宙政策委員を務める東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授は「特殊な技術や質の良さ、世の中のニーズに応えるマメさなど、宇宙の『ニッチ』にこそ日本のチャンスがある」と話す。18年からはJAXAと民間企業が協業して宇宙領域で新事業創出を目指す「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」がスタートするなど、日本企業の技術を宇宙で活用しようとバックアップする動きもここ数年で活発化している。

 月面に家を建て、ビールで晩酌する──。「宇宙暮らし」は今やSFや夢の話ではなくなっている。数十年後に訪れるリアルとして青写真を描くことができれば、異業種企業が宇宙領域で活躍できるチャンスはさらに広がっていくかもしれない。

この記事はシリーズ「ついに来た宇宙経済ビッグバン」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。