「自宅から半径2キロメートルの生活の足を、住民や地元の交通事業者と一緒に作っていく」──。
こう話すのは、高速バス大手のWILLER(ウィラー、大阪市)の村瀬茂高代表。3月9日に発表した新サービス「mobi(モビ)」は、クルマによる約2キロメートル以内の短距離移動を何度でも利用できるサブスクリプション(定額課金)サービスだ。専用アプリで配車を依頼すると、10分以内に乗り合いタクシーやバスがやってくる。

月額5000円程度を予定し、5月ごろから東京都豊島区、渋谷区、京都府の京丹後市でサービスを始める予定だという。全国展開に当たっては「地域オペレーター」を募集。地域の鉄道会社やバス会社が主体となってサービスを運営し、ウィラーはシステムの開発や運用、データ分析など“黒子”に徹する。

さらに、実際の運行は地元のタクシー会社や貸し切りバス事業者に依頼。ウィラー、地域オペレーター、運行事業者という3社が役割を分担する。地域住民や行政なども含め「あらゆる関係者が理解し、協力してもらえる“八方よし”のビジネスモデルでないといけない」(村瀬氏)と話す。
ウィラーがこのビジネスモデルにすんなりとたどり着いたわけではない。
ウィラーの前身は1994年に村瀬氏が設立した西日本ツアーズという旅行会社。当初はスキーツアーなどを企画していたが、「長距離移動を安価にして、より身近なものにする」(村瀬氏)ため、2000年代に入ってから貸し切りバスをチャーターして東京~大阪間などの都市間を走らせる「高速ツアーバス」事業に参入した。需要に応じて料金を変えるダイナミックプライシングや女性を意識したオリジナルシートなどそれまでの高速バスにはなかった革新的な発想で急成長。ピンクがイメージカラーの高速バスは今や20路線、年間利用者数は309万人、バス保有台数229台(いずれも19年12月期)と大手の一角を占めるまでになった。

一方で、業界の常識にとらわれないその手法は、既存の路線バス事業者との摩擦を生んだ。道路運送法に基づく高速バスの運行にはダイヤや運賃など国土交通省の認可が必要で、これが参入障壁になってきた。ところがウィラーは旅行業法に基づく旅行商品として販売することで、認可を経ることなく路線を拡大していった。
地方のバス会社の中には、高速バスの利益で地域路線の赤字をカバーしているケースも多く、当時あるバス会社首脳は「高速ツアーバスは、違法ではないが脱法行為だ」と強く反発していた。既存のバス会社と、ウィラーをはじめとする新規参入組との間で巻き起こった対立は、13年8月に道路運送法の元での「新高速乗合バス」として制度が一本化されるまで10年近くくすぶり続けた。
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