東京など1都3県を対象とした緊急事態宣言が続くなど、厳しい状況が続くホテル・宿泊業界。東京商工リサーチの調査では、2020年の宿泊業の倒産は前年比57%増の118件と7年ぶりに100件台に達した。そんな逆境ともいえる経営環境にあっても、社員やアルバイトの雇用・待遇を守り「一棟貸し切り」といったユニークな取り組みで踏ん張っているホテルがある。日本文化の体験など手厚いサービスで訪日客に人気だった「道頓堀ホテル」などを運営する王宮 道頓堀ホテル(大阪市)だ。同社を率いる橋本明元専務に経営の考え方を聞いた。

1975年大阪府豊中市出身。97年に同志社大学法学部卒業後、川村義肢に入社。4年後、王宮に入社するも翌年退職。上海国際語学学院へ留学後、上海国際貴都飯店、青島シャングリラホテルで営業スタッフとして勤務し、道頓堀ホテルへ再入社。訪日客をターゲットに、驚異の客室稼働率を誇るホテルとなる。2016年に「ザ ブリッジホテル心斎橋」、17年に「大阪逸の彩(ひので)ホテル」、20年に「沖縄逸の彩(ひので) 温泉リゾートホテル」をオープンした。(写真:山田哲也、以下同じ)
大阪府など関西3府県では2月28日に緊急事態宣言が解除されました。ホテルの稼働率や予約などの状況はいかがでしょうか。
橋本明元・王宮 道頓堀ホテル専務(以下、橋本氏):正直なところ、この1年で一番厳しい状況です。大阪などでは緊急事態宣言は解除されましたが、残念ながらその影響はほとんどありません。Go To トラベルによる割引もないこともあって、観光と出張、いずれもほとんど動きが出ていません。現在、大阪に3店舗あるホテルのうち2店舗はクローズしています。お客さんを道頓堀ホテルに集約しても、客室稼働率は5%程度しかありません。
3月から10人以上の宿泊を条件に「一棟貸し切り」というプランを導入し、話題になっています。
橋本氏:おかげさまで45件の予約が入っています。思った以上の数ですね。ある企業では50人程度の研修を実施するに当たり、東京からの25人に宿泊してもらえます。ホテルには会議室がないのですが、貸し切りであれば朝食会場を研修の場所として使ってもらうことが可能です。90人前後の修学旅行の予約も入っています。
ある沖縄の高校野球のチームでは、感染者が多い大阪の街にはなるべく出たくないということで、応援で同行されるご家族なども空港からバスでホテルに直行し、そのまま貸し切りで滞在してもらいます。「沖縄の人だけで泊まれるなら安心」ということで、選んで頂きました。
帝国ホテルやホテルニューオータニなどが長期滞在プランを打ち出していますが、貸し切りというのは業界でも異例です。どのような経緯で出てきたアイデアでしょうか。
橋本氏:昨年12月、ある高校のラグビー部の団体予約が入っていました。チームの中に1人でも感染者が出ると試合を棄権しなくてはならないということで、感染対策にはとても気を使っていました。既にホテルの一般営業はストップしていたため「他のお客さんはいませんよ」とお伝えしたら、とても喜ばれたんですね。あ、これはニーズがあるな、と気が付きました。
出発点は、スタッフのモチベーションをどう保つかということにありました。ホテルを閉じている間も、私どもは社員、そしてアルバイトもコロナ前の待遇を保証し続けています。雇用調整助成金のおかげもありますが、社会保険など会社が負担する部分も含めて変わらないようにしています。
スタッフが自宅待機している間は語学やマナー研修などを実施していました。ただ実際にお客さんと接しなくてはモチベーションは保ちにくい。でもその機会がないのです。スタッフから「いつになったらホテルを開けるのですか」と聞かれるのですが、ただでさえ稼働率が低い中で、残りの2店舗をオープンさせることも難しいですよね。
一棟貸しであれば、予約が入った日だけ出勤してもらい、そうでない日は待機してもらえれば、助成金の対象にもなります。先日、一棟貸し切りの日に久しぶりにスタッフの顔を見ましたが、皆、生き生きしていましたね。コロナ前は宿泊客がいるのが当たり前でした。改めて、お客さんを迎えられる喜びを感じたのではないでしょうか。もちろん厳しい状況が続きますが、新しい顧客の創造につながったことはありがたいですね。
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