企業向けから消費者向けまで数多くの企業が成長戦略に掲げる医療・ヘルスケア領域。そんなレッドオーシャンで多角化に成功しているのが富士フイルムホールディングスだ。なぜ成長を遂げられるのか。助野健児社長・COO(最高執行責任者)に聞いた。

<span class="fontBold">助野健児(すけの・けんじ)氏</span><br />富士フイルムホールディングス社長・COO(最高執行責任者)。1977年京都大学卒業後、富士写真フイルム(現富士フイルム)入社。13年富士フイルムホールディングス取締役、16年から現職。(写真:吉成大輔、以下同じ)
助野健児(すけの・けんじ)氏
富士フイルムホールディングス社長・COO(最高執行責任者)。1977年京都大学卒業後、富士写真フイルム(現富士フイルム)入社。13年富士フイルムホールディングス取締役、16年から現職。(写真:吉成大輔、以下同じ)

製造業だけでなく多くの企業が、医療・ヘルスケア領域を成長戦略の柱に掲げており、レッドオーシャンの様相を呈しています。

富士フイルムホールディングスの助野健児社長・COO(最高執行責任者、以下助野氏):確かにアナリストからもよく「ヘルスケアにいく会社が多いですね」と言われますよ。ただ富士フイルムは突然、最近になってヘルスケアを始めたわけではありません。

 富士フイルムの創業は1934年です。大日本セルロイド(現ダイセル)の写真事業部門が独立、今でいうスピンアウトして設立されました。当時は映画フィルムが貴重で国産化のために産声を上げたわけです。ただ36年にはレントゲン用フィルムを作り始めています。そういう意味ではヘルスケアは設立当初から手掛けています。

 当時は肺結核が大きな社会問題でした。レントゲン用フィルムを大量生産し肺結核という課題に対する1つのソリューションを提供したわけです。ここからスタートし、デジタル化や画像診断など徐々に事業領域を拡大してきました。

 そういう意味で我々のヘルスケア事業は、レントゲン用フィルムを源流とするメディカルシステムとバイオ医薬品の開発製造受託(バイオCDMO)という2つの主力事業に加えて、医薬品開発、最近では再生医療にも取り組んでいます。

 メディカルシステムの中には、X線画像診断装置や内視鏡、超音波診断装置、それらをネットワークでつなぎ、電子カルテ化する医療IT(情報技術)も手掛けています。2019年末に日立製作所からCTやMRIなどの医療関連診断事業を買収することを発表しましたが、「診断」をワンストップで提供する仕組みが整いつつあります。

医療ITの領域は多くの企業が参入しようとしています。競争環境をどうみていますか。

助野氏:我々が医療ITに参入した歴史は古い。医療用のアナログフィルムをデジタル処理して提供する画像診断システムは1983年から手掛けています。今となっては笑い話だけど、当時は現場の医師から「鮮明過ぎて今までの経験を生かせない」と指摘されたほど先進的な取り組みでした。

10年後の世の中の変化を見る

長い歴史の中で、医療・ヘルスケア領域での市場ニーズをくみ取ってきたと。

助野氏:市場のニーズもありますが、3~5年後に世の中がどう変わっていくのかを自ら分析し、バックキャスティングしてきました。

 バイオCDMOもまさにそう。1000億円規模の事業に育ちましたが、突然生まれたわけじゃない。10年もの歳月をかけて育ててきました。検討を始めたのは2000年代後半です。当時はバイオ医薬品の開発にシフトしつつあるタイミングで、製薬大手は製造ではなく研究開発へ経営資源を集中しつつありました。

 さらに創薬ベンチャーの台頭もありました。ベンチャーは研究ベースでいい薬を開発できてもファブレスなので大量生産できません。そういう状況を鑑みて市場があると判断し、参入を決めたわけです。

 バイオCDMOは、窯の中の温度やpH制御など写真フィルムを作る技術が生かせる領域でした。ただ社内でイチから始めたのでは間に合いません。そこで11年に米メルクから同事業を買収することを決めました。

富士フイルムHDでは、ヘルスケアの中で幅広い事業を手掛けているのが特徴です。新規参入する際に領域を決める基準はあるのでしょうか。