Z世代が大卒で社会人となりはじめて数年がたつ。2023年や24年卒の学生もZ世代だ。旧来の世代とは異なる価値観を持ったZ世代の採用に必要なことは何なのか。今回は、知名度では大企業に劣る中小企業がZ世代の採用で気を付けるべき点について考えてみたい。
中小企業にいまだ残る旧来の採用手法
新卒採用のコンサルティングに携わって感じるのは、中小企業の多くは依然として旧来の採用手法にこだわっているということだ。一例を挙げよう。
地方のある中堅メーカーでは、2022年新卒採用の会社説明会で、ホテルの宴会場を貸し切り、学生を一堂に集めた。社長が宴会場の舞台に登壇し、経営理念と事業内容について話した後は、帰りに交通費と手土産を渡す。バブル期の1990年ごろから現在まで内容を変えずに続けられている豪華な演出の説明会だが、実際に集まったのは数人だった。しかも年々、参加する学生数は減っているという。

別の中堅専門商社では、企業ホームページを90年代後半に作成したきりで、文字が多く古めかしいデザインのままだった。新卒採用のホームページもない。採用の受け付けは大手が運営する就活サイトを通じてのみ。この会社も新卒採用試験への応募人数が減少し続けており、直近の新卒採用では10人に満たない応募しかなかった。
ここに挙げた2つの会社は22年度の新卒採用予定人数を確保することはできなかった。こういった旧来の採用方法では、Z世代には刺さらないのが実態だが、中小企業の採用を支援していると、いまだこういった企業は多い。
一人ひとりの価値観に合わせた採用に勝機
Z世代に限らず、知名度で大手に劣る中小企業が旧来の採用手法にこだわっているようでは若い人材を採用することは難しい。
Z世代の特徴としては、ゆとり世代や就職氷河期世代といった上の世代と比べても「個として自分を見てほしい、認めてほしい」という願望が強い。そんな彼ら、彼女らには会社説明会で一方的に会社側の情報を提供し面接でも一方的に学生側の情報を収集する、というのではなく、採用活動の過程において、会社と学生双方の価値観を理解し、すり合わせるプロセスを設ける必要がある。
有効な手段の1つとして、自社に入ることで得られる経験やスキルに関して個々の学生の価値観に合わせて説明する「個別面談」は大きな決め手となるだろう。「採用のカスタムメード」と言ってもいい。
具体的な手法は以下の通りだ。会社説明会は大人数の会社説明会を一度開催するのではなく、数人程度が参加する小規模のものを複数回に分けて実施する。学生には参加時に自分の価値観を明確にするプロフィルシートを記入してもらい、それを見ながら、自社の魅力を提供していくという流れだ。
例えば、前述した地方の中堅メーカーでは今年の採用活動で、会社説明会を1対1で行う個別面談に切り替えた。所要時間は90分。内訳は冒頭10分で学生にはプロフィルシートを記入してもらい、20分で会社概要を説明(こちらは全員一律の説明)、残り60分はプロフィルシートを基に、学生のこれまでの経験や生き方をヒアリングする。
学生が重視している価値観やモチベーションの源を採用担当者も一緒になって話し合った後、事前に準備した自社の魅力を学生の価値観に合わせて訴求するスタイルに変更したのだ。

1対1での面談のため、採用担当者の業務量は以前よりも増えた。だが、大手に比べると応募数はそれほど多くなく、個々の学生に対し内容の濃い訴求ができたので、結果的に採用活動の業務時間は20時間ほど減少できた。加えて、予定していた人数に内定を出せたという。
SNSを生かしてリアルな情報を発信する
Z世代は応募する企業の情報を大手就活サイトだけでなく、SNS(交流サイト)でも収集している。ある23年卒の大学生に話を聞くと「興味のある企業であれば、SNSアカウントを探して、積極的に見るようにしている」という。職場の雰囲気や実際の社員の声などリアルな情報を集めることで、志望する企業とそうでない企業を選別しているというわけだ。
先ほどの中堅専門商社は、22年の採用活動に合わせて古めかしかったホームページのデザインを一新ことにとどまらず、インスタグラムでの採用広報を開始。3日に1度の更新で、社員や職場の様子を写真で紹介している。例えば、「名前、出身地、趣味、入社の決め手と自社の課題」を書き記したA4サイズの紙を持った社員の写真や、社内の部活動やレクリエーションの様子を写した写真をアップして積極的に情報を発信した。この企業では、応募学生の選考辞退率が減少しただけでなく、インスタグラムへの投稿を見たことで応募してきた学生もいたという。
「カスタムメード」と「SNSの運用」。この2つの手法を効果的に運用できれば、中小企業でも新卒採用を積極的に行うことができる。中小企業ではそもそも学生の応募数が少ない企業も多いという現状がある。少ない母数の中で新卒採用を行うには、世代に合わせた方法での情報提供や、一人ひとりの学生と徹底的に向き合う姿勢こそが成功につながるというわけだ。
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