「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)は、普通サークルやアルバイトなどで頑張ったエピソードを話すのが一般的だが、新型コロナウイルスの影響で課外活動が全くできていない。就職活動で話すガクチカはどうすればいいでしょうか」

 近ごろ、就活に関する相談を学生から受ける中で、このような話をよく耳にするようになった。

 こうした悩みは、おそらく2022年卒以降の学生特有のものだろう。

 これまで就活で学生が話すエピソードは慣例的に、部活、サークル、アルバイト、ボランティア、留学経験など課外活動での経験談が多かった。そしてそうした活動が活発化するのは主に大学2~3年の時期だ。

コロナ禍の就活ではエントリーシートや面接で「学生時代に力を入れたこと」をどうアピールするのかを悩んでいる学生も多い(写真:写真はイメージ、PIXTA)
コロナ禍の就活ではエントリーシートや面接で「学生時代に力を入れたこと」をどうアピールするのかを悩んでいる学生も多い(写真:写真はイメージ、PIXTA)

 だが、現在就活に臨んでいる大学4年生やこれからインターンシップが本格化する大学3年生は、19年までのように課外活動を行うことはできなくなってしまった。都内私大3年の軽音楽部の学生は「ライブハウスは閉まっているし、本番の機会がないから部活動も全面休止した」と話し、1年間の海外留学を予定していた関東私大の4年生は「留学先に渡ってすぐに大学から帰国要請が出て、1カ月でとんぼ返りすることになった」と言う。

 そもそも学生の本分は学業のはずなのに、就活となると学業“外”の質問が多いのはなぜだろう。

 これには、日本の大学の学業における“緩さ”が大きく関係している。実際、日本の大学の現状について文部科学省の「大学における教育内容・方法の改善等について」を見ると、「授業に出なくても単位が取れる」「勉強しなくても簡単に卒業できる」といった指摘が挙げられている。「大学の学業生活では社会人において必要な資質は培われない。学生も学業より課外活動に力を入れているのだから、そちらの経験談から学生の資質を見極めよう」という判断で、面接では学外の話題を中心に聞いてきたのだろう。それに呼応する形で学生の間でも就活では課外活動のエピソードを考えておかなければならない、という風潮が広まったのだと推測される。

学業でも「ガクチカ」は語れる

 確かに、入学さえすれば容易に卒業できるということなら、学業への取り組みからは学生の資質は見極められないだろう。しかし、近年の大学生はむしろ以前よりも学業に励んでいるというデータもある。

 総務省統計局の「社会生活基本調査」によると、大学生(一部大学院生含む)が学業に使う週当たり平均時間は1996年には2.57時間だったが、2006年には3.5時間、16年には3.85時間と増加傾向だ。また国立教育政策研究所によると16年時点で大学生が過ごす1週間の生活時間のうち、約半分の時間を学業に充てていることが分かる。

 背景にあるのは、文科省が07年に大学設置基準を改正し、講義内容や成績評価基準などを明示化・厳格化したことだ。学生は従来ほど「緩い」キャンパスライフを送ることはできなくなっている。

 また、学業への取り組みだけでは人間性や資質が見えないという意見も、冷静に考えれば誤解・偏見にすぎない。

 例えば新卒採用で見極めたい資質の1つとして、「義務や苦手なことに対し、いかに意義づけをし、やり抜くことができるか」という力がある。これを、興味・関心の深いこととして始めた課外活動の経験から読み取るのは難しい。一方で、学業は義務であり苦手な分野も個々人にある。例えば理系学部の学生が第2外国語の授業を履修しなければならないように、得意ではない必修授業もある。苦手な科目への取り組み方などからこうした資質は見極めやすいはずだ。

 またリーダーシップや協調性など集団内での振る舞い方についても、少人数での演習形式(グループワーク、フィールドワーク、ゼミ活動など)の経験を語らせることで能力は見極められる。もしくは、グループワークやグループディスカッションでの立ち回りからも判断は可能だ。

 さらに言えば、テストや論文の準備方法からは計画力が見えるだろうし、選択する授業の傾向からは興味関心の幅(1分野に絞って深めていくタイプか、幅広い分野に興味を持ち、広げていくタイプか)も分かるだろう。

課外活動ではなく、学業への取り組み方からでも学生の資質は見極められる(写真:写真はイメージ、PIXTA)
課外活動ではなく、学業への取り組み方からでも学生の資質は見極められる(写真:写真はイメージ、PIXTA)

 仮に成績が優秀でなくとも、取り組みの姿勢から学生の本質を見定めることは可能だ。

 以前、私が採用面接をしたとある学生のケースから考えてみよう。

 関東私大3年生の彼はラクロス部に所属し、学業よりも部活動に力を入れていた。部活に専念できるように編み出したという、授業選択の仕方が興味深かった。楽に単位を取得できる授業、いわゆる「楽単」を得るためにシラバスを読み込んだり、先輩学生から情報を得るために奔走したりしたのだという。その分、放課後は部活に専念できるよう、授業は欠かさず出席し、授業中だけで学習時間を終えられるようノートの取り方なども工夫していた。「おかげで成績は平均点が多かったが、単位を落とすことなく部活に専念できた」と成果を語っていた。部活という趣味・目標のため、学業という義務に向き合い、やり抜いたという目標達成力の高さがうかがえるエピソードだ。

 本来部活に全力を尽くすタイプの学生は、面接ではたいてい部活動のエピソードが軸になりがちだが、コロナ禍で肝心の部活動が縮小、休止となってしまった。部活動のエピソードだけを細かく聞いてもその学生の資質は見極められないが、その分、学業にどう向き合ってきたかを聞くことで人間性を見ることはできるはずだ。

 就活に臨む学生には課外活動だけでなく、これまでの学業での活動・取り組み方も振り返ってみてほしい。

企業側の意識改革も必要

 意識改革が必要なのは学生だけではない。

 とある企業の採用担当者は、21年の採用面接で、課外活動よりも学業に力を入れたとアピールする学生に対し、「真面目かどうかは分かるが、それ以外の力や資質が見抜けないのではないか」と懸念していた。だが、学生はより厳格化・複雑化した大学の授業を工夫してこなしながら、様々な資質を培っている。

 これは21年の就活は例外的な状況で、課外活動について学生から有益なエピソードを得られないから、その代わりに学業について聞こう、という代替案ではない。コロナ禍は、日本の就活における学業の関わり方を見直すための単なる契機であり、コロナ後は課外活動だけでなく学業からも学生の資質を見極めることを継続すべきだと筆者は考える。

 これを機に、企業と学生双方が「課外活動での経験談だけでなく、学業への取り組み方からも社会人としての資質は見極められる」と認識を改めるべきではないだろうか。

この記事はシリーズ「安藤健の人事解体論」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。