「外の世界」を知らせることが逆に離職防止につながる

 終身雇用や年功序列といった制度にもはやコミットできなくなっている企業にとっては、そうしたものにとらわれなくなっている若手社員の考え方がある意味ありがたいと思えるかもしれない。

 一方でこうした傾向は企業にとっては人材が定着しないリスクをはらんでいる。ある中堅メーカーの人事担当役員は、今後の不透明な業績見通しを考えると中長期的に自社の人材の流動性を高めなければならないと課題感を持ちつつも、「これまで社内のキャリアのみに目を向けさせてきた社員たちに、いきなりキャリアについて自律性を持つように促す研修を実施するのは恐怖心がある」と正直な気持ちを漏らしていた。こうした大きな方向転換に対する恐怖は、多くの企業や経営者が抱えるところだろう。

 だが、社員を囲い込もうとするよりも、キャリアについて社員の自律を促した方が自社へのエンゲージメントは高まることが学術的には明らかになっている。むろん転職意識も高まるのだが、会社への愛着の高まりはそれに勝る。一例を挙げよう。

キャリア支援を積極的に行うことが若手の離職を防ぐにはむしろ有効だ(写真:PIXTA)
キャリア支援を積極的に行うことが若手の離職を防ぐにはむしろ有効だ(写真:PIXTA)

 ある専門商社では、これまで社内で必要なスキルのみを教えていたキャリア開発研修を、ポータブルスキル(社外でも通用する基礎的な共通スキル)を開発する研修内容に刷新した。加えて個人のキャリアを棚卸しすることで自分が持っているスキルを可視化したり、今後どのようなスキルを身に付ける必要があるかを考えたりするワークを取り入れることで、社員が自らのキャリアについて考えるきっかけを与えた。その結果、受講した社員からは「会社が広い視野で自分のキャリアを考えてくれたのは、会社自体に余裕があるからのように感じた。無理やり必死に自社にとどまらせようとするよりも、フラットに考えてくれるこの社風が好きだ」という声も上がったという。

 戦後すぐの貧しい時代、会社が終身雇用を約束することに対して社員が感じた恩義は、これからの時代、Z世代にとってはキャリア自律を後押ししてくれることに対して感じる恩義に変わっていくのかもしれない。

 これからの日本企業では、従来の企業と個人のウェットな関係の良い部分(助け合い、相互扶助)は残しつつ、個人は企業に依存せず企業も個人に依存しない、自律的な働き方と雇用のあり方を模索していく必要がありそうだ。

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