新型コロナウイルス禍を期に働き方や雇用をめぐる環境は激変した。中でも「今後、若手社員のキャリアについては一体誰が責任を持つのか」というテーマは人事の世界でひときわ大きな注目を集めている。新入社員たちは働くことやキャリアについてどんな認識をしているのか、そして会社は若手社員のキャリアに対して今後どう関わっていけばいいのかを考えてみよう。
就活生の半数以上が「入社後の転職」を意識
最近、ある大手新卒採用サイトのアンケート結果を分析する仕事があり、データに目を通して驚いたことがあった。現在就職活動をしている2023年卒就活生の内、半数以上が入社後の転職を意識して1社目の企業を探しているという結果だ。つまり、過半の学生が新卒で入社する企業で長く働くことを考えていないということになる。
採用する企業側からすると、これは望ましい結果ではないだろう。1人当たりの新卒採用単価は平均すると80万円ほど(理系人材であれば100万円ほど)のコストがかかる。せっかく採用した新入社員の半数以上が入社時点で次のキャリアを見越しているとあれば、費用対効果が低いかもしれない、と考えるのも当然だ。
ただ、企業側も終身雇用を維持することは、もはや厳しいと感じてきていることもまた事実だ。
特にコロナ禍以降はこの傾向に拍車がかかった。東京商工リサーチの調査では20年に希望退職募集を開示した上場企業数は93社で、募集人数は判明した80社で1万8635人に上ったという。同様に21年には84社が希望退職募集を開示した。私自身、大手企業から早期・希望退職優遇制度の導入について相談を受けることが増え、そうした企業側の意識の変容について、身をもって実感している。
もちろんこうした流れはコロナ禍に始まったことではなく、過去のバブル崩壊後とリーマン・ショック後にもあった。そもそもこういった緊急事態ではない平時にも、緩やかな日本経済の停滞と共に、「終身雇用の崩壊」と呼ばれる現象が日本企業の各所で起きているわけだが、上記のアンケート結果からは、それに適応しようとする社員側の意識変容が見て取れる。

現在の20代若手社員の中心は1990年代中盤以降に生まれたZ世代だ。彼らはバブル崩壊以降の平成不況だけでなく、2011年の東日本大震災、そして現在のコロナ禍など数多くの社会不安の中で育ってきている。
ゆえに彼らのキャリア観は「社会に安定などない」という意識が根本にある。例えば、筆者がある学生に対してキャリア観をインタビューした際は「大手企業の経営破綻も珍しくはないし、コロナ禍でも就活生に人気の高い航空や観光業界の大手が相次いで大幅赤字に陥った」「明日は何が起きるか分からない。絶対的・安定的なよりどころなどないと思っている」という声が数多く聞かれた。
こうした意識に加え、女性の社会進出やダイバーシティへの意識の高まりもあってかZ世代の若者は「これからは自分がどう生きていくか、何で生きていくかは自分自身で決めなければならない」とキャリアプランについて自ら積極的に考える自律性を持とうとする傾向がこれまで以上に強いようだ。
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