コロナ禍で新卒採用の環境は激変した。これまで空前の「売り手市場」といわれていた状況から一変、2021年卒採用活動からは「買い手市場」となった。
リクルートワークス研究所の調査によると、新卒の有効求人倍率は、16年卒の1.73倍から20年卒の1.83倍まで高止まりしていたが、この年を境に、21年卒では一気に1.53倍(20年6月時点)にまで減少した。
採用に積極的な企業にとっては競合が減ることで応募人数の増加が期待できる半面、学生は募集が減ることで、少ない枠を奪い合うことになる。
表面的な応募増に「ぬか喜び」しない
「コロナ以前」の学生の就職活動量は、新卒有効求人倍率の上昇と反比例して減少の一途をたどってきた。リクルートキャリア就職みらい研究所の就職白書によれば、学生が個別企業の説明会に参加する平均数は17年卒で15.22社だが、20年卒では11.25社。エントリーシートの平均提出数は17年卒で16.23社、20年卒では12.36社にまで減少していた。
一方、コロナ下での就活となった21年卒の学生は活動量が増えた。ウェブ上の説明会への参加は20年卒の4.6社から10.06社(21年卒)と倍以上に増加。エントリーシートの提出数も14.75社と2社以上増えている。
つまり、有効求人倍率が下がれば、学生の活動量は増える。実際、22年卒(予定)の学生はすでに積極的に動きだしている。就活情報大手・ディスコ(東京・文京)の調査では4月1日時点の内定率は38.2%と過去10年で最高値を示した。
この傾向を歓迎する企業も少なくない。ある地方の中堅メーカーでは例年数十人の応募しか得られなかったが、22年卒は2月時点ですでに100人を超える応募を得られていた。
だが、これらのデータや現場の状況から「買い手市場」と判断するのは早計と私は考える。

まず企業が本当に採用を絞っているのか、という点だ。
リクルートワークス研究所の「ワークス採用見通し調査」によると22年卒の大卒・大学院卒の採用見通しは「減る」が11.6%、「増える」が7.7%、「変わらない」が45.0%。明確に採用数を絞る企業は約1割、5割以上は増えるもしくは現状維持なのだ。
私のクライアントでも、大手を中心に22年卒は例年同様の採用人数で、食品、IT、物流などは特に採用人数を例年以上に増やしているところも多い。
求人数に劇的な変化がないのに、学生が不安から就職活動量を増やすとどうなるか。複数の企業から内定を得ても、最終的な入社先は1社である。企業は母集団の形成に成功しても、その後に内定辞退者が続出してしまう危険性があるのだ。
適性検査を利用した「採用の科学化」
22年卒採用において、人事がパワーを割くべきは、本当に自社に合う人物の見極めを選考過程で行うこと。そして、うまく母集団形成ができたとしても、ぬか喜びせずに、丁寧なフォロー(入社意欲醸成)をしなければならない。学生の応募が増えることが予想できる今年は特にそうした姿勢が重要だ。
本当に自社に合う人物かどうかは、学歴や資格といった属性ではわからない。人間性を見極める目的の面接も心理的なバイアス(面接官自身が持つ偏見やステレオタイプ)がかかりやすく、実は相当な訓練が必要だ。この心理的バイアスを克服する手段としては、適性検査などを使った科学的データの活用が有効だ。
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