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 みなさんは「ゆるブラック企業」をご存じでしょうか。従業員に長時間労働を課し、パワーハラスメントなどの行為がある、いわゆる「ブラック企業」とは異なります。

 日経ビジネスは特集「ゆるブラック企業」(雑誌版は11月15日号特集として掲載)で、働き方改革の陰で増えている、ゆるブラック企業について取り上げました。

 ゆるブラック企業とはどのような企業を指しているのでしょうか。日経ビジネスの特集では次のように説明しています。

 政府が雇用・労働分野の成長戦略と位置づけ取り組んできた働き方改革。2019年には働き方改革関連法が施行され、長時間労働の是正に向けた取り組みは加速。社員の健康や安全を守る制度も整備され、多様な背景・属性を持つ人材への配慮も進んだ。だが、多くの企業では社員のモチベーションは必ずしも上がっていない。背景にあるのは「不完全で中途半端な働き方改革」だ。様々な手法で労働時間を削減し見た目こそホワイト企業になったものの、社員がやりがいを感じる仕組みまで社内から消えた──。そんな会社も少なくない。「ブラック企業ほど忙しくないが、ブラック企業と同じように成長を感じられない。これではまるで“ゆるいブラック企業”」。若手社員からはこんな声も聞こえる。

 なぜ、ゆるブラック企業が増えているのでしょうか。特集では2016年に大手化学メーカーに入り、現在は別の企業で働く京子さん(仮名)のケースを紹介しながら、その背景に迫っています。

 化学メーカーに入社した後、人事部に配属となった京子さん。仕事を一通り覚えた頃、社内で働き方改革が本格化したそうです。「安全で明るい職場」をスローガンに、サービス残業や休日の作業を前提とした資料作成、休日メールなどを削減するため、様々なルールが導入されていきます。京子さんも当初は「やりがいを高める上でとてもいいことだ」と思っていたそうです。

 しかし、改革が軌道に乗るにつれて違和感が芽生えました。午後6時には何としても仕事を終わらせ、会社を退社しなければなりません。「残業は1分単位で管理される。この管理があまりに厳格で、乱暴に言えば“仕事はどうでもいいからとにかく早く帰れ”という上からの意思をひしひしと感じた」(京子さん)。部下の有給休暇取得率などが組織長の人事評価に反映されるという新ルール導入の“成果”でした。

 新入社員向けの研修プログラムを提案しても「残業が増えてしまう」という理由で、アイデアは却下されてしまいます。働き方改革以降、同じ作業の繰り返しばかりで、ゼロからイチを生み出す工程には携わっていないと京子さんは感じました。数年後も成長していないのではないかと不安を抱いた京子さんはコンサルティングファームへの転職を決断しました。

 働き方改革を推し進め、いわゆるホワイト企業が増えたはずの日本の産業界。しかし、一部企業の現場の若手社員は、そう受け止めてはいません。成長が感じられず、働きがいが低下した結果、多くの企業がゆるブラック企業となってしまっているのです。

 特集では、多くの企業がホワイトではなく、ゆるブラックになってしまう理由は安易な労働時間削減にあると指摘しています。若手社員の仕事の固定化やジョブローテーションの凍結などは、長時間労働の抑制には効果があるかもしれませんが、一方で特に若手社員がスキルを身に付け、成長する機会を奪っているとも言えます。

 では、どのように働き方改革を進めればよいのでしょうか。働き方改革で先行した企業の事例を挙げながら、働き方改革のあり方についてまとめたのが『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』です。

著者:白河 桃子
出版社:PHP研究所
定価:968円(税込)
出版日:2017年07月28日

レビュー

 昨今、労働環境の改善は、企業のみならず国全体としての課題だ。2016年9月には、安倍晋三首相により「働き方改革実現推進室」が設置され、働き方改革の取り組みが政府主導で提唱されている。日本各地で働き方改革に関するセミナーや勉強会が開催され、メディアでは盛んに特集が組まれていることからも、多くの人に「働き方改革」という言葉は意識されているのではないだろうか。

 ところが、実際に「働き方改革を成功させるためにはどうしたらいいか」となると、効果的な具体策が実行できないどころか、改革案すら浮かばず、古い慣習に縛られたままで苦慮している現場は少なくない。また、働き方改革に取り組んではいるものの、まったく結果が出ないことで難儀している企業も多い。

 本書は、こうした多くの企業やビジネスパーソンに向けて、働き方改革の誤解や間違っている点、成功を実現させるための具体策を丁寧に紹介している。働き方改革先進企業として、大和証券、アクセンチュア、サイボウズ、カルビーなど、すでに成功をおさめた会社の事例も多く取り上げられているため、参考にしやすいのもポイントだ。

 見せかけの改革ではなく、経営戦略として働き方改革に取り組むこと。ぜひ本書が訴えかけるメッセージを受け止め、企業改革に臨んでみてほしい。

 働き方改革の背景には、長時間残業ありきの働き方が個人のライフスタイルに合わなくなってきたことに加えて、日本の働き方の生産性の低さを改善しなければならないという事情もあります。

 企業として労働生産性を高めていく必要がありますが、それとともに個人としても生産性を高めていくことも必須かもしれません。立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務める出口治明氏が個人の知的生産性についてまとめたのが『知的生産術』です。

著者:出口 治明
出版社:日本実業出版社
定価:1,650円(税込)
出版日:2019年02月20日

レビュー

 日本の働き方は生産性が低い――多くのビジネスパーソンにとって同意できることであり、「耳が痛い」と感じられることでもあるだろう。実際、本書によると、日本は他の先進国よりも労働時間が長いにもかかわらず、成長率(=生産性)は大幅に低いという。

 超高齢化社会の日本において、この状況は一刻も早く改善されなければならない。高齢者層を支えるためには、労働人口の生産性を上げていくほかないのだ。

 本書のテーマは、個人の知的生産性の向上だ。ライフネット生命を創業し、立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務める出口治明氏が著者に立ち、ビジネスパーソンの知的生産性を上げるためのヒントを指南する。どのヒントも実践的だが、「メシ・風呂・寝る」を中心とした長時間労働を短時間集中労働に変え、「人・本・旅」から仕事への着想を得るべきであること、女性活躍推進には長時間労働からの脱却が急務であること、リソース活用のために「無減代(むげんだい)」(本文で詳述)を意識するべきであることなどは、特にうなずく人が多いだろう。APUのスタッフは非常に生産性の高い働き方を実践しているというから、説得力がある。

 残念ながら、「労働時間」重視の評価体制を崩すには時間がかかるだろう。だが何年かけてでも着実に、「生産性」重視の働き方にシフトしていかなければならない。そうしなければもう、日本の成長はないのだから。

 生産性を高めるには単純に労働時間を減らすだけでなく、年齢や性別に関係なくやりがいを持って働いてもらい、成果を出してもらう必要があります。年齢などにとらわれず成果を出せる組織に必要なのが、米グーグルなどが重視している「心理的安全性」です。

著者:石井 遼介
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
定価:1,980円(税込)
出版日:2020年09月10日

レビュー

 「心理的安全性」とは、組織やチーム全体の成果に向けて、率直な意見や素朴な疑問、そして違和感の指摘がいつでも、誰でも気兼ねなく言えることだ。

 この考え方の重要性を見出したのは、グーグルである。同社が4年の歳月をかけて「効果的なチームはどのようなチームか」を調査・分析した結果、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」のほうが真に重要だということがわかった。さらに圧倒的に重要なのが心理的安全性であり、心理的安全なチームは離職率が低く、収益性が高いとも結論づけられている。

 もちろん心理的安全性の重要さは、グーグルだけが発見したわけではない。組織行動を研究する研究者たちも、さまざまな成果を学会に発表しており「業績向上に寄与する」「イノベーションのプロセスや改善が起きやすくなる」「意思決定の質が上がる」といったビジネスの現場における有用性が次々と報告されている。

 いま、新型コロナウイルスの感染拡大によって生活や仕事で大きな変化を余儀なくされている方も多いだろう。このように先が見えず、変化の激しい時代には「確固とした正解がある」時代のチームマネジメントは役に立たなくなっている。だからこそチームの心理的安全性を高め、「挑戦・模索」からチームの学習を促進することの重要性が増しているのだろう。

 本書は単なるノウハウ集ではなく、理論と体系に基づいて実践に向けた指針が示されており、多くのビジネスパーソンにとって、これからの働きかたの実現に向けた必携の書となるだろう。

 とにかく残業しないように厳しく管理する、週末はメールを送らないように指導するなど形ばかりにとらわれた働き方改革では、企業は「ゆるブラック」となり、優秀な人材は会社を去ってしまいます。働き方改革を通じて何を目指すのか。企業は問われていると言えるでしょう。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

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