日経ビジネスが電子版や雑誌のシリーズ・特集でお届けしている様々なテーマをもっと深く知りたい。そんなご要望にお応えするため、記事のさらなる理解に役立つ書籍3冊を、本の要約サービス「flier(フライヤー)」がピックアップします。

 長期停滞が続く日本経済。その中にあってマンガ、アニメ、ゲームといったコンテンツは世界に通用する重要な産業となっています。日経ビジネスは特集「ゲーム進化論」で、日本が誇るゲーム産業の現状について取り上げました(雑誌版は9月27日号『日本勢は「ガラゲー」か? ゲーム進化論』として掲載)。

 ゲーム市場は世界で拡大が続いています。スマートフォンの普及やコロナ禍による巣ごもり需要も追い風になっており、世界のゲーム市場は2024年に24兆円を超える見通しです。世界で拡大を続けてきた「オタク市場」の中にあって、ゲームを中心とする日本のポップカルチャーは常に存在感を示してきました。

 日本のポップカルチャーの強さと今後の方向性については、下記の『オタク経済圏創世記』に詳しく紹介されています。

著者:中山敦雄
出版社:日経BP
定価:1,870円(税込)
出版日:2019年11月18日

レビュー

 これまで一度もマンガ・アニメ・ゲームに触れたことがない人はほぼいないだろう。しかしそれがいまや400億~500億円規模の市場を持ち、グローバルに発信されていることをご存知だろうか。本書はこうした「オタク経済圏」について論じつつ、これからの日本経済を支えるものは「2.5次元」のライブコンテンツだとしている。

 昔から日本のマンガ・アニメ・ゲームは世界に知られていたものの、国内では軽んじられることも多かった。だが日本のポップカルチャーは、世界に類を見ない作品性の高いコンテンツであり、それは紛れもなく世界に通用する、日本独自の武器である。

 とはいえ高品質なコンテンツを作るだけでは、もはや生き残ることはできない――著者はそう警鐘を鳴らす。何もしなければ、ユーザーの関心はどんどん離れていってしまう。そこで重要になるのが、タレントによるSNSやイベントなど、比較的安価かつ素早く展開できるコンテンツである。こうした「2.5次元」のライブコンテンツ化により、ユーザーの関心を引き、「キャラクター経済圏」が形成されるというわけだ。

 オタクの消費行動は、一般ユーザーの3倍にもなると言われている。日本が再び「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を実現できるとするならば、それば文化産業しかない。マンガ・アニメ・ゲーム「なんて」と言っている場合ではない。オタク文化は日本経済の最先端であり未来なのである。

 ただ、日経ビジネスの特集では、市場が膨れ上がってきたことによって、日本のお家芸とも言えるゲームの領域で海外勢が躍進している様子が描かれています。

 例えば米エピックゲームズが開発・配信するバトルゲーム「フォートナイト」。ユーザー数は3億5000万人と、米国の人口(約3億3000万人)を上回っています。ゲーム内の仮想空間では、アリアナ・グランデさんや米津玄師さんら人気のアーティストがライブイベントを開催するなど、単なるゲームを超えて一種のプラットフォームになっています。

 エピックは2020年、アップルの規約を意図的に破り、アプリストアから排除されました。「アップル税」ともいわれる、15~30%のアプリ配信手数料に不満を抱いたためです。その後の訴訟では多くの項目でアップルに有利な判決が出たものの、エピック側は「我々は戦い続ける」と宣言して控訴しました。

 ゲームの開発会社であるエピックがGAFAの一角であるITの巨人、米アップルに反旗を翻す。その事実こそゲームという産業が力を持ち始めている証左と言えるでしょう。

 そんな中で、日本のゲームの存在感は以前と比べて薄れています。1億人以上のユーザーを集める、世界的に人気のゲームは米国や中国をはじめとする海外のゲーム会社が開発した作品ばかりです。

 特集ではその理由として、スマホなどマルチデバイスへの対応の遅れと課金モデルの違いを挙げています。そもそも日本のゲーム文化は、任天堂が家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」を大ヒットさせたことが大きな転換点になっています。その後、日本のゲーム産業は家庭用ゲーム機を中心に発展してきました。

 ゲーム産業とゲーム文化の変遷については『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』に詳しく書かれています。

著者:中川大地
出版社:早川書房
定価:3,080円(税込)
出版日:2016年08月25日

レビュー

 「ゲームは現実よりも強い」

 この一言から始まる本書は、20世紀以降のゲームを総括する歴史書でありながら、同時にゲームの歴史を通して世界の変容を物語る文芸作品だ。ヨハン・ホイジンガやロジェ・カイヨワの文化人類学的な遊戯論を横軸にし、日本の社会学者・見田宗介の提唱した時代区分を縦軸として参照しつつ、ありとあらゆるゲームが織り込まれ、1つの大きなタペストリーを完成させていく。その手腕もさることながら、本書をまとめるまでにかかった年月を想像すると、畏敬の念すら湧いてくるのではないだろうか。

 著者によれば、今日のエンターテインメントジャンルとしてのコンピューターゲームを育んできたのは、主にアメリカと日本という、戦後の自由貿易体制のもとで資本主義世界をリードしてきた2つの産業国に他ならないという。コンピューター技術そのものの黎明期から2010年代前半に至るまでのデジタルゲームを、遊びとテクノロジー、そして社会文化がせめぎあう特異な表現ジャンルとして捉え、その異種混合的なダイナミズムを余すことなく表現する本書は、西欧近代の文明原理と、日本文化の衝突と融和のプロセスを巧みに描き出している。

 現代の日本文化を理解したいのであれば、もはやゲームを避けて通ることはできない。そう強く感じさせてくれる一冊だ。

 今ではGAFAのようなITの大手企業もゲームに力を入れています。それはフォートナイトの事例からも分かるように、ゲームをはじめとする仮想空間が、多くの人が集まり経済活動を行うプラットフォームになりつつあるからです。

 さらに、ゲームで培った技術は現実の世界でも活用されるようになっています。日経ビジネスの特集ではゲームの技術をビジネスに利用する竹中工務店やデンソーの事例が紹介されています。

 また「遊び」の中で技術も進化していきます。AI(人工知能)に関しては、将棋や囲碁などを通じてその技術の進化を多くの人が目の当たりにしてきました。特集の中で東京大学の松原仁教授は「ルールが決まっているゲームという世界が、コンピューターの技術を磨く環境としてうってつけだからだ」と語っています。

 これを機にAIの中核を担う機械学習について一から勉強してみるのもよさそうです。

著者:田口善弘
出版社:講談社
定価:1,100円(税込)
出版日:2021年07月20日

レビュー

 2010年後半から、急速な盛り上がりを見せている第三次AIブームは現在もなお続いている。その中核を担う技術として注目を集める機械学習は、大量のデータによって機械がみずから学習し、分類や予測などのタスクを行うために生かされている。今やあらゆる分野で活用されるようになり、日常生活でも当たり前のように使われるようになってきた。これからは誰しもAIや機械学習と無縁ではいられないだろう。

 しかし、実際のところ、「機械学習」とは何で、どんな仕組みで動いているのかと言われると、答えられる人のほうが少ないはずだ。本書は、まだ機械学習について詳しくないという人に向けて、中学数学の知識の範囲で、機械学習の基礎的な知識について解説している。難解な数式の代わりに、アート作品や映画、小説などのたとえ話を交えながら、簡単な数字に置き換えて説明されていて、初心者でもイメージが持ちやすい。機械学習にはこれから触れ始めるという人にもわかりやすい記述で安心して読み進めることができる。

 k近傍法という簡単な手法から、徐々に難解な手法の解説へと移り、最終的には「深層学習」や「量子計算機」など、近年注目が集まっているテーマにも言及している。これから勉強を始めたいという学生の方から、機械学習の基礎を押さえたいと思うビジネスパーソンまで、幅広い方におすすめできる一冊だ。あらゆる業界に影響を及ぼす機械学習の基礎概念を、本書で学んでみてはいかがだろうか。

 日経ビジネスの特集では、「遊びをせんとや生まれけむ」という平安時代末期に後白河法皇が編さんした歌謡集『梁塵秘抄』を代表する今様歌謡の一節を紹介しています。広がり続けるゲームの世界は人間の本質を捉えたものと言えそうです。「たかがゲーム」といった認識では、今後ますます大きくなっていくビジネスチャンスを逃してしまいかねません。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

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