日経ビジネスが電子版や雑誌のシリーズ・特集でお届けしている様々なテーマをもっと深く知りたい。そんなご要望にお応えするため、記事のさらなる理解に役立つ書籍3冊を、本の要約サービス「flier(フライヤー)」がピックアップします。

 日経ビジネスは特集「スーパーシティの光と影」で日本の都市のデジタルトランスフォーメーション(DX)について取り上げました(週刊日経ビジネスでは2021年9月13日号特集として掲載)。日本の地方都市は高齢化や過疎化、産業の空洞化といった課題を抱えています。地方自治体は人口減や高齢化が進む中で、交通や医療といった生活に欠かせないインフラをどのように維持していくかに頭を悩ませています。AI(人工知能)やビッグデータなどのデジタル技術を活用して、「社会の在り方を根本から変える」(内閣府)都市がスーパーシティです。

 スーパーシティ構想を打ち出している内閣府はスーパーシティを次のように定義しています。

  1. これまでの自動走行や再生可能エネルギーなど、個別分野限定の実証実験的な取組ではなく、例えば決済の完全キャッシュレス化、行政手続のワンスオンリー化、遠隔教育や遠隔医療、自動走行の域内フル活用など、幅広く生活全般をカバーする取組であること
  2. 一時的な実証実験ではなくて、2030年頃に実現され得る「ありたき未来」の生活の先行実現に向けて、暮らしと社会に実装する取組であること
  3. さらに、供給者や技術者目線ではなくて、住民の目線でより良い暮らしの実現を図るものであること

 上記の3つの要素を併せ持った「まるごと未来都市」がスーパーシティであるというわけです。

 国はスーパーシティ構想を進めるため、スーパーシティ型国家戦略特別区域の指定を受ける地方公共団体を公募。今年4月に締め切られ、31の地方公共団体が応募しました。

 応募した地方公共団体の1つが会津若松市です。同市が公表している提案書によると「本市は、人口減少や少子高齢化など、全国の他の自治体と共通の課題を抱えている(中略)様々な課題解決に向けて意欲的にチャレンジすることで、全国の他の自治体におけるモデルケースになりたいと考えている」とスーパーシティ構想に取り組む理由を掲げています。

 具体的には、地域全体を一元的に健康管理・医療・介護を担う一つのバーチャル機関と見立て、AIなどデジタル技術をフル活用した予防医療の仕組みを構築する「バーチャルホスピタル会津若松」や手数料ゼロのデジタル地域通貨、デジタル市役所と新庁舎が融合した行政DXなどを実現するとしています。

 ただ、国の専門調査会は今年8月、スーパーシティ構想に応募していた31の地方公共団体に対し、提案の見直しと再提出を求めました。地方公共団体から提案についてヒアリングした国家戦略特区ワーキンググループがまとめた講評は「大胆な規制緩和の提案が乏しかった」としており、スーパーシティ構想が今後どのように進展していくのかが注目されます。

 とはいえ、テクノロジーを使って都市の力を引き上げていくことは各自治体や日本全体にとって不可欠です。改革に取り組む福岡市長による『日本を最速で変える方法』と、日本の現状の分析と未来への提言が記された『シン・ニホン』の2冊をご紹介します。

著者:高島宗一郎
出版社:日経BP
定価:1,980円(税込)
出版日:2021年5月31日

レビュー

 全国住みたい街ランキングで常に上位にランクインしている福岡県福岡市。2020年度の人口増加数・増加率は政令指定都市で第1位。2019年度の開業率は政令指定都市で第1位。7年連続で税収過去最高を更新。福岡市をこんなふうに活力あふれる街にしているものは何なのか。

 本書の著者は、アナウンサー出身で、2010年の初当選から現在まで3期連続して再選を続けている福岡市長の高島宗一郎氏である。しかも、いずれの期でも史上最多得票を叩き出すという人気ぶりだ。福岡市を変えることで、日本を変えたいと本気で願い、新たなチャレンジを続ける姿勢とその結果が人々を魅了するのだろう。著者は、これからの時代のキーワードとして、「データ連携」と「感染症対策」を挙げる。そして、新たなテクノロジーを社会実装することにより、日本の未来を創造したいと考えている。福岡市が実践するチャレンジの詳細とその背景にある戦略が明らかになり、「福岡市から日本を変える」という未来図が提示されるさまは圧巻だ。

 人間の感情から生まれる本質を突いたWhy視点の問い、あるべき姿を追求した大義ある提案力、そして疑問を抱いた事象を深く洞察し、実行に結びつけていく力。本書の文章にも、著者の人間力と志の強さがにじみ出ているのを要約者は感じた。

 本気で日本を変えたいと思い、新たなチャレンジに奮闘するビジネスパーソンには必ず手にとっていただきたい一冊である。挑戦の後押しをされること請け合いだ。

著者:安宅和人
出版社:NewsPicksパブリッシング
定価:2,640円(税込)
出版日:2020年2月20日

レビュー

 日本はもう終わった――失われた30年の間に幾度ともなく口にされてきたこの言葉は、多くの日本人の心に陰を落としている。無力感が蔓延するなかで、この『シン・ニホン』についたコピーは「この国は、もう一度立ち上がれる」だ。本書は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」の総合グランプリおよび政治・経済部門賞を受賞した。多くの読者が、このような本を待ち望んでいたのだろう。

 著者である安宅和人氏は、感情論ではなく、事実とデータに即した分析をもとに、世界とこの国の現状の苦しさを冷静に見つめる。そして、単なる悲観論を「逃げだ」と喝破し、未来を自ら目指し創るために行動を続けている。

 たとえば、日本の国家予算を分析すると、金はあるのに未来への投資である教育や科学技術の予算が削られていることがわかる。日本の科学技術の予算は圧倒的に不足しており、主要国で唯一、博士号の取得にまとまった費用がかかる国だ。米国の主要大学と大きな差を生んでいる収入は投資からの運用益であることを踏まえ、著者は本書で国家レベルの基金システムの設立を提言した。理想を語っても現実は変わらないと思う人もいるかもしれない。しかし、本書の刊行後の2020年12月、10兆円規模を目指す大学ファンド創設が盛り込まれた緊急経済対策が閣議決定した。まさに、「未来を創る」を体現している。

 著者の描くこの国の状況は厳しい。それでも、著者の眼差しは、日本への愛に溢れている。希望を灯す一冊を手に、あなたもいっしょに未来を創る一人になってほしい。

 デジタル化は国や都市だけでなく企業にとっても大きな課題です。DXを実現しようとしても、古い仕組みや組織が邪魔をしてうまくいかないことも多々あるでしょう。DXに立ちはだかる壁をいかに乗り越えるのかについて書かれているのが『いまこそ知りたいDX戦略』です。

著者:石角友愛
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
定価:1,870円(税込)
出版日:2021年4月25日

レビュー

 現在、日本では空前のDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームが起こっている。読者の中にも、「会社にDX推進部ができた」あるいは「DXを進めるよう社長から指示を受けた」など、他人事ではない方もいるのではないだろうか。それにもかかわらず、多くの日本企業のDXが失敗に終わっている。実際、これまで100社以上の企業のDXに携わってきた著者は、数多くの場面で「何から着手していいのかわからない」「プロジェクトが途中で頓挫した」などといった失敗事例を目にしてきたという。なぜ、日本企業のDXは失敗するのか。

 本書は、日本企業がDXの成功に至らない原因を3つの壁として定義し、その壁をこえる方法を提示してくれる。成功・失敗問わず、事例を数多く取り上げているため、「自分の業界に置き換えて考えると、こうなるかな」といったイメージが湧きやすい。章の最初に抽象化した主張を置き、後半に具体例を示すといった文章構成も、理解を助けてくれる。

 DXによって、今後も業界地図は塗り替えられていくだろう。そんな時代においては、DXプロジェクトが企業の命運を握っているといっても過言ではない。なぜなら、本書によると、DXは根本的なビジネスモデルの変換を意味するものであり、競争優位性の確保・向上という点において非常に重要な要素だからだ。本書を手に取り、その大枠と本質をつかむことによって、DX推進の足掛かりとしていただきたい。

 デジタル技術で都市も企業も大きく変わる可能性を秘めています。ただ、そのためには個人のデータをどう扱うかといった課題を一つひとつ解決していかなければなりません。便利で安心な生活をどのように実現していくのか。国や自治体、企業の取り組みが加速することを期待しましょう。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

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