パナソニック品田正弘社長と田原総一朗氏が対談。最近の経営改革の考え方から注目度の高いエネルギー関連事業、同社の創業者である松下幸之助氏まで、幅広いテーマについて語り合った。

田原総一朗氏(以下、田原氏):よろしくお願いします。品田さんは「Make New(メークニュー)」という言葉を掲げているそうですがまず、この意味についてうかがいます。
品田正弘氏(以下、品田氏):1つの大きな会社だったパナソニックは2022年4月、事業領域ごとに会社を分けた事業会社制に移行しました。その中で私が社長を務めるパナソニックは、創業以来100年以上手掛けてきた、くらしの領域の事業を集めた会社です。長い歴史がある一方、過去のしがらみから脱却しきれない部分もあります。このため、新しいものをつくっていこうと考え、Make Newという言葉を掲げました。社員と懇談するときには、何があなたのMake New(新しくやりたいこと)か教えてほしい、と伝えています。
田原氏:僕は40歳ごろから何度かパナソニックの創業者、松下幸之助さんにお会いしたことがあります。日本を代表する経営者という存在だった松下さんに僕は2つの疑問がありました。1つは、どういう人を後継者にするのか。そうしたら、松下さんは「困難な問題にぶつかったとき、困難であればあるほど前向きに突っ込んでいく。そういう人を後継者にしたい」と答えられた。Make Newはまさに困難な問題に対して前向きに突っ込んでいくことだと感じました。
品田氏:それは本当に大切です。事業環境にはいろいろな変化がありますが、常に前を向いて、自分の意思をしっかり持って、未来を向いてやっていくべきだと考えています。
田原氏:もう1つ松下さんに尋ねたのは、経営者が一番大切だと思っていることは何かです。松下さんによると、それは「全社員がどうすればモチベーションを持ってくれるだろうか、全社員がやる気を出してもらえるか」とのことでした。
今、パナソニックだけでなく、日本のほとんどの企業で経営者は闘争心が弱まっている、と僕は思います。
品田氏:それはお客様に対してどういう価値をつくっていこうか、といった気持ちが非常に弱まってしまったということだと思います。言い換えれば、それは日本経済の競争力がだんだん弱まり、我々の仕事も内向きになってきたのではないかと危惧しています。
田原氏:どうも日本のビジネスパーソンは「上から言われたことをやっていればよい」という傾向があるようですね。
品田氏:その通りです。上から言われたことをやっていくと仕事はどうしても内に向きがちになります。
田原氏:日本のビジネスパーソンの目標は、「企業の中でいかに地位を高めるか」になっているのではないでしょうか。企業の中での地位を高めるにはどうしても上に気に入られないといけない。となると、正論が言えなくなり、チャレンジ精神もなくなっていく。
品田氏:本当にその通りです。チャレンジ精神を失うだけでなく、お客様を見なくなるのですよね。私もこの会社に36年勤めていますが、昔は皆もっとお客様を見ていました。
田原氏:現在、サントリーホールディングス社長の新浪剛史さんが三菱商事から転じてローソンの社長になったとき、ローソンがコンビニとしていかに成功するかは、ローソンの従業員たちがいかにお客さんの方を向いてサービスするかだと考えた。しかし当初よく理解されず、多くの人が辞めてしまった。このため、従業員が辞めずにサービスを提供するにはどうしたらいいか、非常に苦労したそうです。こうした課題はどうしたら解決できるでしょうか。
品田氏:社員に「お客様のほうを向こう」と言うことも大切ですが、会社が従業員を大切にしているかもすごく大切です。実はここがだんだん弱くなってきている。私が入社したのは1988年ですが、会社全体に従業員一人ひとりを大切にしようという意識がもっとありました。時間がたつにつれ、会社が一人ひとりを大切にしているというメッセージを発信したり、具体的なアクションを取ったりすることが減ってきたのです。私はこの部分に取り組んでいきたいと考えています。
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