グリーン成長戦略では、発電や輸送、製鉄など様々な分野での水素利用を急ピッチで進めることがうたわれている。「夢のエネルギー源」として、近年再び注目を集める水素だが、商業利用するには、高いハードルがいくつも立ちはだかる。水素社会を「夢」に終わらせないためには何が必要か。

岩谷産業が設置した水素ステーション
岩谷産業が設置した水素ステーション

 燃やしても二酸化炭素(CO2)が発生せず、枯渇する心配もない――。そんな「夢のエネルギー源」として、近年再び注目を集める水素。政府が炭素中立に向けた工程表として昨年12月に発表した「グリーン成長戦略」でも、脱炭素の切り札の1つに位置づけられている。

 現在、日本では年間130万t程度の水素が消費されている。だが「その99%は製鉄や石油精製といった、水素が発生する施設内で自家消費されており、一般に流通するのは1万t余りにとどまる」(岩谷産業)。

 グリーン成長戦略では、発電や輸送、製鉄など様々な分野での水素利用を急ピッチで進め、国内導入量を2030年に最大300万t、50年に2000万t程度へと飛躍的に高めることを目指している。ただし、この目標には多くの壁が立ちはだかる。

採算度外視の価格「100円」

 政府の試算では水素の価格を、30年に1Nm3(1ノルマルリューベ=気体の標準状態での1m3)当たり30円、50年に20円以下にすることを導入量達成の前提にしている。だが現状は同100円程度とされ、大きな隔たりがある。

 水素利用で比較的先行しているのはモビリティー(乗り物)分野だ。水素ガス最大手の岩谷産業は14年に、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「ミライ」の発売に合わせて、天然ガスを改質・精製してつくった水素を供給する日本初の水素ステーションを開設した。

 その際、FCVの普及のためにハイブリッド車(HV)の燃料コストと同等にするために採算度外視で設定したのが現状の100円だ。「売れば売るほど赤字になるのが実情」(関係者)で、実際のコストはそれ以上に高い。

トヨタ自動車が昨年12月に発売した燃料電池車(FCV)新型「ミライ」
トヨタ自動車が昨年12月に発売した燃料電池車(FCV)新型「ミライ」

 コストを引き下げるには、消費量を大幅に増やす必要がある。この「鶏と卵」のジレンマが、水素利用の足かせとなってきた。そこで昨年12月7日に岩谷産業、トヨタ、三井住友フィナンシャルグループなど88社が「水素バリューチェーン推進協議会」を設立。需要側と供給側の企業が連携し、コスト低減や技術開発を進めるネットワークがようやく整い始めた。

 水素自体はあくまでエネルギーを運ぶ媒体にすぎない。脱炭素を実現する上で重要なのは、水素の製造方法だ。風力や太陽光などの再生可能エネルギーで水を電気分解すれば、CO2を出さずにつくった水素(通称、再エネ水素)が手に入るが、国内の再エネ価格が高いため道のりは遠い。

 では比較的安価な水素を大量に調達するためにはどうすればよいか。Jパワーや岩谷産業などは、オーストラリアに大量にある未利用の褐炭(水分や不純物が多い低品位な石炭)に着目。熱で分解して水素を取り出した後、マイナス253度に冷やして液化し、川崎重工業が開発した世界初の液化水素運搬船で日本に輸入する構想を描く。「30年に30円という政府目標にどこまで近づけるかは未知数」(関係者)だが、2月に豪州で水素の製造開始にこぎ着けた。

川崎重工業が開発した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」
川崎重工業が開発した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」
続きを読む 2/2 目指すは再エネ水素

この記事はシリーズ「脱炭素、本当にできるのか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。