ゼロエミッション火力の足がかりとなる混焼でにわかに注目を浴びているのが燃料としてのアンモニアだ。分子式が「NH3」のアンモニアは水素(H)と窒素(N)で構成され、燃焼してもCO2を排出しない。窒素を含むため燃焼時には大気汚染につながる窒素酸化物(NOx)が発生する難点もあるが、その生成を抑え、発電所内で回収する燃焼手法の開発も進んでいる。
また、アンモニアの製造段階まで遡ると、現状では、大半が天然ガスなどの化石燃料から取り出した水素と空気中から分離した窒素を原料として生産している。水素製造の課程で大量のCO2が発生するため、CO2フリーのアンモニアを実現するには、再エネを使って水を電気分解する水素の製造法をコストと技術の両面で実現する必要がある。課題はまだ多く残されているのだ。
JERA経営企画本部調査部技術経営戦略ユニット長の尾崎亮一氏は、「まずは碧南火力発電所(愛知県碧南市)で実証実験を行い、当面は30年代前半に20%のアンモニア混焼率を目指す」と説明する。JERAは、保有する石炭火力すべてで30年代前半にアンモニア混焼率20%を達成する目標を立てている。その後も混焼率を高めて、火力発電所のリプレース計画に併せて40年代に100%のアンモニア発電を実現するロードマップを公表している。
原子力停止の中で生まれた東電の発案が全国に拡大
20年4月、福島の事故以降に取り組んできた国の電力システム改革の総仕上げとなる「発送電分離」の体制が整い、すべての電力会社が送配電事業会社の分社化を完了させた。この流れの中で生まれたのが東電の送配電会社、東京電力パワーグリッド(PG)だ。
東電PGが考案したのが、既に千葉県などの一部地域で適用してきた「ノンファーム型接続」と呼ぶ送電網の新たな活用方法である。これまで送電網は火力や原子力など既存の電源に対して優先的に接続を許可してきた。その一方で、割を食ってきたのが再エネだ。ノンファーム型接続では、発電量が必要以上に大きくなる時間帯に出力制限してもらうことを条件に、再エネを積極的に受け入れる。
東電PGがこうした新たな活用法を打ち出すのは、原子力など既存の電源の稼働が進まず送電線の容量が有効に活用できていないからだ。新しい送電線を設置するには大規模な投資がいる。東電本体から分離された送配電会社が限られた資産で経営するには、既存の送電線を有効活用することが重要だ。東電PG幹部は「再エネも含めて電源の効率的な導入を進める必要がある」と強調する。ノンファーム型接続は21年以降、国が全国に拡大する方向だ。
一方、必要な電力をどう確保するかではなく、確保した電力量に、いかに需要を合わせるかという発想も必要になる。再エネ拡大など電源構成の変化によって、以前にも増して停電の可能性は高まっているからだ。電力の需給が逼迫したら、一律に国民に節電要請をするという発想だ。電事連の池辺会長は「節電要請のルール化が必要だ」と強調する。
脱炭素を目指せば目指すほど、電源構成や送電網の課題が浮かび上がってくる。しかし、ここを避けては目標達成は無理だ。技術開発や発電コスト、利用者の便益といった多種多様で絡み合った要素を整理しつつ、国民や企業の負担を極小化する方法を模索するしかない。
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