20年夏に発足した経済産業省、国土交通省、電力会社や国内メーカー、建設会社がメンバーに入る洋上風力の官民協議会。同12月中旬に公表した「洋上風力産業ビジョン」に海外のエネルギー関係者から感嘆の声が上がっている。

 ビジョンでは40年に世界第3位の規模となる最大4500万kWの洋上風力を導入する目標を掲げた。欧州連合(EU)、中国に次ぐ規模で、国別に見れば第2位。ドイツの4000万kW、米国の3800万kWも超える。1基1万kWとして4500基。その8割を設置する想定になっている北海道、東北、九州の海の風景が変わりそうだ。アグレッシブな数字は、「日本の産業界が投資判断に踏み切れる規模」も考慮して導かれた。

 洋上風力の開発に携わるJERAの矢島聡・事業開発本部副本部長は「日本の目標は海外でかなり好意的に受け止められている。主要プレーヤーからの関心は高い」と話す。日本が本気を出してきた――。「宣伝効果」が予想以上に世界に広がっている。

 水産資源に影響が出ないかなどを調べ、漁業者との合意形成が必要であることから、日本では課題が多いとされる洋上風力。ただこうした懸念は杞憂(きゆう)かもしれない。エネルギー業界に詳しい橘川武郎・国際大学教授が、デンマークの洋上風力世界最大手、オーステッドの関係者に聞いたところ、「日本で洋上風力は推進できる」とあっさり答えたと言う。

 オーステッドの説明はこうだ。漁業者が出資して発電事業者としての利益を得られる仕組みにすれば一気に流れを変えられる。風車を設置した地域から需要地までの送電線の費用を誰が負担するかの問題は、需要増加で価格が下がれば企業が投資に動くだろうとの見立てだ。

 オーステッドは20年、東京電力と洋上風力の共同出資会社を設立した。こうした日本への積極投資が、同社が日本を潜在力の高い市場と判断していることを物語っている。

幻となった原子力の「新増設」

 そして、避けて通れないのが、原子力をどう位置づけるかだ。国は50年に原子力と、CO2を地下に埋めたり再利用したりする「CCUS(CO2の回収・利用・貯留)」技術と組み合わせた火力との合計で、電源構成の30~40%にするとの目標を提示。火力との合算で示したことで原子力単体の割合が見えなくなった。

 「あの瞬間、日本の原発の『新増設』の可能性が消えた」。あの瞬間とは、今から約2年前の19年秋。関西電力役員らが福井県高浜町の元助役から金品を受領した問題が発覚したときだ。東電が事実上の国有化となった後、日本の原発を最も推進してきたという自負があった関電は、美浜原発のリプレース(建て替え)決定に向け準備を着々と進めていた。ところが、問題発覚でリプレースは汚名にまみれ、幻となる。同時に日本で停滞する原発政策に突破口を開くはずだった「震災以降、初の新増設」が消えた。

「新増設」が幻となった関西電力美浜原子力発電所(写真:共同通信)
「新増設」が幻となった関西電力美浜原子力発電所(写真:共同通信)

 原子力は安全性を十分に担保する必要があるが、CO2をほとんど出さないうえ、LNG発電のように燃料を継続的に輸入する必要がない特性がある。脱炭素を推進していく点で、再エネと並び重要な役割を果たす電源になるとの見方は根強い。

 国は、原子力と並ぶベースロード(基幹)電源である石炭火力については、非効率な発電所から休廃止をしていくことを既に決めた。変動が大きいという弱点を十分に克服できていない再エネを50~60%まで高める「チャレンジングな目標」を実現するなら、原子力を残す選択肢も浮上する。

 「日本は移行する際の戦略が非常に苦手。脱炭素には必ず痛みを伴う」と橘川氏は言う。国民や産業界が耐えられるかをみながら、多様な選択肢を用意しておくことが必要だという意見だ。国内にある原発33基のうち稼働しているのは4基。この状況を今後どうするかも痛みを伴う検討課題である。

 このまま新増設がなく、運転期間を現在の40年から60年に延長したとすると、稼働できる原発は50年に18基、60年に5基と減っていき、69年にゼロになる。原子力利用という選択肢を排除しないなら50年先を見据えた長期計画を今から考える必要がある。もし追加投資をするなら長期の採算性も確保しなくてはならない。発電事業者からは「先行きの稼働状況が予見できることが不可欠」(電力会社幹部)という本音も出る。

アンモニアを燃料にするJERAの新機軸

 グリーン成長戦略が出る約10年前、福島の事故をきっかけに電力業界は早急な改革が求められた。その結果、再エネの推進だけでなく、CO2削減につながる新たな技術の芽も生まれてきている。

 化石燃料を利用する火力発電はCO2排出量の削減を目指す低炭素社会では敬遠される。JERAは20年10月に、50年時点で同社から排出されるCO2を実質ゼロにする「JERAゼロエミッション2050」を掲げ、新しい火力発電のかたちを模索し始めた。

 老朽化した効率の悪い石炭火力発電所を30年までに全面廃止する。さらに、水素やアンモニアなど燃焼時にCO2を排出しない「グリーン燃料」を活用した「ゼロエミッション火力」の実現に挑む。水素運搬やアンモニアの確保など社会全体の技術的ブレークスルーが必要となる。まずは既存の火力発電プラントで、従来の燃料にグリーン燃料を混ぜた「混焼」の実証試験を行う。

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