2060年に二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする――。
昨年9月22日、国連総会でビデオ映像による一般討論演説に臨んだ中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、そう高らかに宣言した。
「新興国である中国にまで先を越されたことで、霞が関と永田町で、日本のカーボンニュートラル(炭素中立)目標の発表は待ったなしとの危機感が強まった」と政府部内の動きに詳しい関係者は明かす。
9月16日に発足したばかりの菅内閣は、対応に追われた。10月26日、国会での所信表明演説に臨んだ菅義偉首相は、2050年までに温暖化ガスの排出を全体としてゼロにする炭素中立の実現を目指すと宣言した。

1週遅れで世界の笑いものに
折しも米国では、天下分け目の大統領選が終盤を迎えていた。
16年に発足したトランプ政権下で、米国の気候変動政策の時計の針は著しく後退して止まっていた。国内の産業保護を優先し、温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」からの脱退を表明。これに対しバイデン陣営は、「脱炭素」を政策の軸に据え、就任後のパリ協定即時復帰や50年の炭素中立を公約に掲げながら、11月3日の投票に向けて優勢に傾きつつあった。
気候変動政策で世界の先頭を走る欧州連合(EU)は、昨年3月、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにすると発表していた。
「菅首相のカーボンニュートラル宣言があと1週間余り遅れてバイデン氏の勝利後になっていたら、(米国の後を追いかける格好になった)日本は世界の笑いものになっていただろう」。国際大学国際経営学研究科の橘川武郎教授は、そう指摘する。
カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温暖化ガスの排出量を減らし、さらに森林による吸収量や途上国での排出削減活動の貢献分などを差し引いた実質的な排出量をゼロにすることを指す。

先進国から劣等生へ転落
日本は1970年代の石油危機を教訓に、「乾いたぞうきんを絞る」と形容される世界にも類を見ない徹底ぶりで省エネルギー政策を官民一体で進めてきた。97年の第3回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP3)の開催国となり、人類史上初の温暖化ガス削減の国際的枠組み「京都議定書」を取りまとめた日本は、世界の先端を行く「環境先進国」とのイメージが定着した。
だが2011年、潮目が変わる。東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を契機に、全国の原発が停止。原発に代わるベース電源として、CO2排出量が多い石炭火力に依存せざるを得なくなった。その結果、一転して日本は国際的な批判にさらされる。
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