東日本大震災で津波と原子力災害に襲われた福島県の海沿い「浜通り」。懸命な復興が進む一方、本当に10年たったのかと思わざるを得ない悲惨な風景があちこちに残る。原子力発電所のある双葉町の駅に降り、震災10年の光と影を取材した。
人気劇画『ゴルゴ13』の1980年代の作品に「2万5千年の荒野」という話がある。
米ロサンゼルス郊外、G&E社のヤーマス原発では運転開始を目前にしながらトラブルが絶えない状況が続いていた。現場は稼働延期を訴えるが、政治的な思惑から経営陣は運転を強行。稼働後まもなく原発は暴走し、ロスの街は放射能汚染により「2万5千年の荒野」になる寸前まで追いつめられる。
劇画の世界であった原発事故が、日本で現実になったのが2011年の震災だった。「原発は安全」と信じていた福島・浜通りの人々は裏切られた。その震災から10年。「2万5千年の荒野」になりかけた、浜通りの現場を歩いた。

首都圏に電気を送り続けた東京電力福島第1原発は、双葉町と大熊町の両方にまたがる海沿いにある。地域の暮らしや経済を知るには、まずこの周辺に行く必要があった。
歩いている人に出会わない
2月初旬、双葉駅の周辺をぐるりと回った。一言でいえば、10年前のまま、時計が止まっているかのようだった。
2020年、JR東日本の常磐線が9年ぶりに全線開通し、双葉駅も再び開業した。その真新しい駅舎と対照的に、倒壊したままの家屋があちこちに放置されている。「空き家の状態を確認して回っている」。空き巣を警戒し、警官が1軒ずつ見回りしていた。

実は双葉町は今も、町の大半が、放射線量が高く立ち入りを制限される「帰還困難区域」だ。ほんの一部の地域だけ、20年に避難指示が解除されたが、水道や電気が完全には通っておらず人が住める状況にない。
だから、歩いている人にほとんど出会わない。大きな国道を、工事用のトラックと一緒に自家用車が時々通るぐらいだ。ホテル、食堂、コンビニエンスストアは見当たらず、他にも商店のようなものはない。双葉町役場はあるが、廃虚と化している。いわき市などに機能を移した。
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