東日本大震災は、地方における「人々の暮らし方」にも大きな変化をもたらした。震災後注目を集めたのが、安全な場所に皆で集まって暮らす「コンパクトシティー」計画だ。高齢化対策でもメリットがあるとされた新しい「街づくり」はその後、順調に進んだのか。

復興のシンボルとして残る陸前高田市の「奇跡の一本松」

 「奇跡の一本松」で知られる岩手県陸前高田市。その中心部が活気を取り戻しつつある。

 にぎわいの中心は、2017年4月、旧市街地より10mほどかさ上げされた街の中央にオープンした大型商業施設「アバッセたかた」だ。スーパーマーケットやドラッグストアのほか、書店やカフェ、化粧品店など約20の店や施設などがある。併設する市立図書館にも地元の学生や住民らが多数訪れており、年間の来場者数はのべ120万人いる。

 「オープン以来、来場者数は安定し商業施設も埋まっている」。こう話すのは、書籍・文具を販売する伊東文具店を運営し、地元商工会の会長も務める伊東孝氏だ。

 震災前には5つの商店街がばらばらに点在。人の流れが分散し、地域全体の高齢化もあっていずれも早い時期からシャッター商店街化していたという。「今のにぎわいは、震災後、商工会と行政が協働し、各施設を中心部に集中させたコンパクトな街づくりを目指した成果」と伊東氏は強調する。飲食・小売店も「アバッセたかた」を囲むようにして立ち並ぶ。

地方の高齢化対策の切り札

 震災後、被災地で新しい街づくりのモデルの一つとして注目された「コンパクトシティー計画」。それは地域の活性化のみならず、高齢化対策としても多くのメリットがあるとされた。想像以上の速度で進む地方の高齢化も、震災が国民に改めて知らしめた日本の社会課題の一つだ。

 警察庁のまとめによると、12年2月末までに見つかった死者は1万5786人。身元が判明した死者のうち約65%が60歳以上だった。若い人が周囲にいない、体が不自由などといった様々な事情で多くの高齢者が逃げ遅れたり、けがを負ったりした現実がうかがえる。

 その点、住宅や商業施設を安全な地域に集約し、皆でまとまって暮らすコンパクトシティーならば、高齢者が災害時に孤立する確率は減るうえ、買い物などの利便性も高まり、日常生活のクオリティーも上がる。集住すればエリア全体のエネルギー効率も高くなり、道路や上下水道、鉄道、医療機関などの社会インフラも維持しやすい。陸前高田市が11年、復興計画の中心に「コンパクトシティー」を据えたのも、理にかなった選択といえた。
 

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