東京から北へ約185km。日本の村で唯一、新幹線の駅(新白河駅)があることで知られる福島県西郷村、隣町には県内有数の温泉集積地、下郷町がある。

 「震災後、被災地で産声を上げた様々な新産業育成プロジェクトの現状を探る」。そんな目的の取材の対象エリアとして、取材班がまずこの2つの場所を選択したのは、震災直後、ほかならぬ本誌自身がその「夢の計画」を大きく報道した経緯があるからだ。

10年前、西郷村には大規模な植物工場を建設する計画があった(写真はイメージ、PIXTA)

 その全貌は2011年9月12日号に詳細に書かれている。計画自体は「新産業を矢継ぎ早に集積し、世界から企業や人材を大量に呼び込む」という壮大なものだった。

 第1の柱は、西郷村に建設する大規模な植物工場。水力や地熱をはじめ再生可能エネルギーをふんだんに使い、必要な電力はそれらで自給し、完全閉鎖型で野菜を育てる。第2の柱は最先端福祉事業。介護福祉施設や介護技術養成学校、介護ロボットの研究開発拠点などを設け、留学生らを積極的に受け入れるというものだ。

地方の課題まで解決する一大復興モデル

 さらに下郷町では、町内にある温泉資源を活用し、“一大医療拠点”とすることを視野に入れる。狙いは海外からの「医療ツーリズム」の受け入れで、高齢者に限らず、多くの外国人観光客に長期滞在してもらえば、新たな雇用も確実に生まれる。そんなふれ込みだった。

 大手外資系コンサルティング会社が旗振り役となり、日本を代表する電機メーカーや大手商社、介護大手など20社ほどが計画に賛同する意向を示したというこのプロジェクト。記事は「(日本の地方が抱える)高齢化や医療介護の問題を、エネルギー自給や新興国需要という軸も絡めて解決する視座はほかの地域の復興モデルにもなる」と結んでいる。

 だが、震災から10年を迎える今、この壮大な計画はどこまで進んだのか両自治体に尋ねると、想像もしない答えが返ってきた。

 「植物工場? そのような施設は我が村には今も1つもありません」。西郷村の担当者はこう話した。下郷町の担当者も「医療ツーリズムで街を訪れた訪日客などこの10年で1人もいません」と断言した。どうやら計画は相当早い段階で白紙となり、何一つ実現に向けて動き出したものはない様子だ。大きな反対運動が起きたわけでもなく、自然消滅してしまったようだという。

下郷町を一大医療拠点とする計画も自然消滅に近い形で立ち消えになった(写真:PIXTA)

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