
「設立翌日に東北電力に送電線への接続保留を発表された」と苦笑しながら振り返るのは創業メンバーの1人である千葉訓道副社長。村内に1.5MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設する計画だったが、いきなりはしごを外された。太陽光がダメならと数年後には風力発電所の建設を考えた時期もあった。しかし東北電力に接続検討を申し込むと送電線の増強工事などを理由に約20億円もの費用に加え、工事完了までは5年前後を要すると、担当者には口頭で告げられた。
受益者負担は市場経済の原則とはいえ、村民らが出資した市民エネルギー会社にそんな大金が出せるはずはない。「東北電力が悪いわけではない。悪いのは3.11という悲劇を経験してもなお既得権益を優先し、市民エネルギー会社の成長に向けた規制緩和一つ実現できない日本という国だと思う」と千葉副社長は話す。
結局、飯舘電力は15年以降、送電線への接続が可能だった50kW未満の小規模な発電所を複数所有する戦略を選択。20年までに設置した太陽光発電所の数は49カ所となり、総発電容量は2.4MWまで増えた。だが、経営は厳しい。

太陽光発電による売電価格は年々下落。飯舘電力が設立された14年度の売電価格は32円(10kW以上・1kWh当たり)だったが、今や13円(10kW以上50kW未満・同)になった。このままでは、「小規模発電所で分散して発電する」という決して効率的と言えない同社のビジネスモデルは、いずれ利益を十分出せなくなる。「結局、事業を続けられるのは、資本力とマンパワーのある電力事業者だけ」と米澤副社長は話す。
福島県喜多方市に本社を構え太陽光発電事業などを手掛ける会津電力の佐藤彌右衛門会長も、震災後に掲げた「会津におけるエネルギーの自給自足」という夢を、「既得権益と規制」の壁に阻まれ続けている経営者の1人だ。
「電力大手は、再生可能エネルギーを普及させたくない」
1790年以降200年以上続く老舗酒蔵「大和川酒造店」(喜多方市)の9代目でもある佐藤会長。2013年の設立の際は「酒屋が挑む電力事業」として注目を集め、5~10MWクラスのメガソーラー建設を将来の目標に掲げた。
だが、飯舘電力同様、東北電力の送電線を思うように使えず、現在、県内21の市町村で88カ所の太陽光発電所を持つものの、メガソーラーは1か所のみ。50kW以上1MW未満の中規模発電所は5カ所で、その他82カ所は50kW未満の小規模発電所だ。太陽光発電の売買価格が下がれば、飯舘電力と同じく苦境は避けられない。
14年9月に送電線への接続保留を表明した理由として東北電力は、太陽光発電事業に参入が相次ぎ、送電網が逼迫する恐れがあるためと説明していた。佐藤会長は「稼働していない原子力発電所に充てるつもりの送電網の容量は残っているはず。電力大手は結局、再生可能エネルギーを普及させたくないのだろう」と話す。
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