12年に、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)がスタートすると、13年10月に2MW級の太陽光発電設備「相馬太陽光発電所」が稼働。17年には東京ドーム約15個分にあたる約70万m2の土地に、52MWの巨大太陽光発電設備を設置した。

 ただ、持続可能エネルギー社会の実現を人生の目標とするマスク氏が現状を知れば、その動きはまだまだ遅いと感じるに違いない。10MWを超えるような大型太陽光設備は数えられるほどしかなく、企業生活から市民生活まで全てを再生エネで賄うまでには至らない状況。再生エネ用の送電線網の整備も完成していない。

マスク氏は着工式にも参加、鍬入れも行ったが……
マスク氏は着工式にも参加、鍬入れも行ったが……

 そもそもマスク氏が、福島を「再生可能エネルギーの一大聖地」にすべく現地入りしたという一報を聞いたとき、被災した多くの人がイメージしたのは「街の全てを、安全で環境に優しい新しい電力で動かす未来都市」だったはずだ。改革は進んでいるものの、そんな理想から見れば、明らかに物足りない状況なのは事実。設置された当時のまま、細々と発電を続けるマスク氏の太陽光発電システムはその象徴と言っていい。

「市民エネルギー会社」は今後5年で淘汰も

 日本経済に大打撃を与えた東日本大震災から10年。未曽有の災害は、被災地に混乱をもたらすとともに、日本社会が抱えていた様々な矛盾を改めて顕在化させ、多くの国民に不退転の改革を決意させた。原発に依存したエネルギー政策の転換はその筆頭だ。

 被災地の惨状を前に多くの自治体や個人が改革の旗手に名乗りを上げ、地域住民が電力会社を立ち上げる「市民エネルギー会社」も勃興した。NPO法人環境エネルギー政策研究所の古屋将太研究員は「17年時点では200業者が確認されている。現在は230前後ではないか」とみる。

 相馬市などはむしろ十分健闘している方で、大幅に遅延したり立ち消えたりしてしまったプロジェクトも少なくない。福島県飯舘村の市民エネルギー会社、飯舘電力の米澤一造副社長は「今後5年で、業界全体で存続が危ぶまれるところも出てくる」と予見する。

 なぜこんなことになるのか。答えは単純で、日本における電力改革には、一自治体や一企業の頑張りではどうにもならない高いハードルが今なお立ちはだかるからだ。「日本で再生可能エネルギーの普及が進まないのは結局、既得権益と規制という2つの壁を越えられないから」。京都大学大学院経済学研究科の特任教授で、エネルギー戦略研究所の取締役研究所長を務める山家公雄氏はこう話す。

 飯舘電力も14年9月の設立当初から幾度も「既得権益と規制の壁」にぶつかってきた。

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