街に関するランキング、例えば「住みここちランキング」や「住み続けたい街ランキング」で、郊外や地方の街が上位にランクインすると、必ず「クルマがあればね」とか「クルマがないとどうしようもない」といって、その評価を否定するコメントが寄せられる。しかし、“駅近物件”がもてはやされているのは、限られた大都市部にすぎない。地方では1人1台マイカーを持っていることが当たり前で、駅からの近さよりも、駐車場の有無が物件選びには重要になる。さらに新型コロナウイルス感染への不安感から、公共交通機関の利用を避ける動きも出てきている。中長期的には、大都市圏の駅徒歩文化は変わらず、地方のクルマ社会は自動運転車によって変化する可能性がある。

(写真:PIXTA)
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 「駅から徒歩数分の“駅近”物件は資産価値が高い」「首都圏でも、“駅近”でなければ将来、大暴落しかねない」――不動産業界ではそんなあおり文句が横行している。

 駅に近いほど資産価値が高く、販売価格も家賃も高くなるというのが読者の共通認識かもしれない。しかし、筆者の研究では、都市部と地方・郊外部において家賃の決まり方が異なることが分かっている。2017年の論文「地域の空き家率が家賃に与える影響」では、駅からの徒歩分数が1分増えたときの家賃の下落率は、東京23区が-0.66%。大阪市-0.42%、名古屋市-0.46%とやや下がる。それが福岡市で-0.28%、札幌市で-0.19%と下落幅が緩やかになり、仙台市では0.08%とほとんど下落傾向が見られなかった。

 中古マンション価格でも、地域により下落率にばらつきがある。筆者の2018年の論文「地域の共同住宅空室率が中古マンション価格に与える影響」では、駅からの徒歩分数が1分増えたときの価格下落率は東京23区で-1.13%、大阪市も-1.13%、名古屋市-0.80%、札幌市-0.22%、仙台市-0.98%、福岡市-0.47%だった。

 このように駅からの距離が家賃・中古マンション価格へ及ぼす影響は都市によって異なり、政令指定都市でも地方になるほど下落率は小さくなる。さらに政令市以外の地方都市になると、家賃に対して駅からの徒歩時間や距離がほとんど影響を及ぼさなくなる。駅近物件ほど価値があるというのは、日本全国に視点を広げてみると、とても“常識”とはいえない。

 都市に暮らしていると、通勤や通学だけでなく、どこかに遊びに行くにも駅まで歩き、そこから電車に乗って出かけるということがあまりにも当たり前になっている。しかし、街の住みここちランキングの回答者、約52万人分のデータを分析してみると、通勤手段は都道府県や都市によって大きく違うことが分かる。

 有職者の通勤手段は、都道府県によって大きく違い、クルマ通勤比率(バイクを含む)の47都道府県の平均は53.6%(標準偏差:16.4%)で、最もクルマ通勤比率が高いのは、山形県の72.1%、最も低いのは東京都の5.6%である。一方、鉄道・バス通勤比率は、47都道府県の平均は12.7%(標準偏差11.6%)。最も鉄道・バス通勤比率が高いのは東京都の47.6%で、最も低いのは山形県の1.7%となっている。

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