人口増加は目的ではなく、受容性向上を通じた幸福度向上のための手段

 地方創生では、人口をどうやって増やすのかも議論になることが多いが、筆者の2020年の論文「地域の居住満足度と人口増減の関係」では、「イメージ因子」「親しみやすさ因子」「生活利便性因子」が人口増加にプラスの影響を及ぼしていることを示した。また、「街の住みここちランキング2020総評レポート」の構造方程式モデリングを用いた分析でも、やはり「イメージ因子」「親しみやすさ因子」「生活利便性因子」が人口増加にプラスの影響を与えており、「街に誇りを持っている」「街に住み続けたい」といったシビックプライド関連の項目も人口増加に「親しみやすさ因子」の半分程度の影響があることが示されている。

 注目すべきなのは、「親しみやすさ」が、地域の人口増加にも幸福度にも共通して、プラスの影響を与える点だろう。

 ここでいう「親しみやすさ」とは前述したように、適度な無関心と距離感によって形成された緩い人間関係を前提とした、新しい住民を受け入れる受容性のことだ。人口増加と緩やかな人間関係は、相互に影響を及ぼし合っていると考えるべきだろう。人口が増えること=新しい住民が入ってくることで、「親しみやさ」が向上して、それがさらに人口流入に寄与するというものである。

 人口流入が少ないうちは、新しい住民に対して従来の濃密な地域の人間関係に加わるよう強く求めることができるが、新しい住民が一定数を超えてくると、そうした圧力が浸透せず、結果として新しい住民は、緩やかな人間関係を形成することができ、それが街の雰囲気を変える、という可能性である。

 このとき、住民が増えるようにするためには、新しく住宅が供給されることが必要で、一定の政策的支援も検討されるべきだ。新しい住宅への満足度は当然高く、それが住民の幸福度を押し上げる効果もある。そして住宅は、5~10戸といったある程度まとまった規模で供給することで、旧来の濃密な人間関係への同調圧力を弱め、新しい住民が緩やかな人間関係を形成することに役立つだろう。

 こうして考えれば、人口増加は、親しみやすさ、すなわち新しい住民への受容性の向上を通じた、地域住民の幸福度向上のための手段であることが分かる。その意味では、一定規模の人口流入があるだけでも街の親しみやすさは向上し、それが住民の幸福度も向上させる可能性があるわけである。

 ただし、このときの人口流入は、大都市からのU・Iターンによって実現できるケースは限定的で、多くは周辺自治体との人口の奪い合いにならざるを得ないことに注意する必要がある。そして、それは新たに住宅を購入できるだけの経済的余裕のある若年層人口の獲得競争となることを意味する。

 既に日本全体では人口が減少している状況の中、そうした競争に飛び込むのか、それとも現状を受け入れるのか。住民の幸福度の状況も考慮しながら、首長や議員、一部のリーダー・有識者の意見や希望ではなく、住民の総意を確認しながら進める街づくりが求められているのではないだろうか。

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