さて、こうした若者の地方から都市部への流出を防ごうと、「地方創生」が叫ばれている。内閣府の地方創生のウェブサイトには、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」として、「人口減少を克服し、将来にわたって成長力を確保し、『活力ある日本社会』を維持する」ため、「稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする」「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる」という4つの基本目標と、「多様な人材の活躍を推進する」「新しい時代の流れを力にする」という2つの横断的な目標が掲げられている。

 これをまとめれば、就業機会をつくり、人口を増やし、地域の魅力を高める、ということであり、実際に様々な政策が立案され、民間からも提案や提言がある。とはいえ、先ほど述べたように居住満足度には大きな差があり、ここを埋めるのは容易ではないだろう。そこで注目したいのが「幸福度」である。前出の表を見ると、幸福度は、その他の市が0.97、町村が0.98であり、政令市とほとんど変わらない結果となっている。

目指すべき地方創生は「幸福の格差」の解消

 しかし実は、細かく見ていくと実態は異なる。確かに平均値で見ると大きな差が出ないのだが、自治体の人口に注目すると幸福度が大きく違っていることが分かる。

 散布図を作ってみると、人口と幸福度の相関はかなり低い(相関係数:0.251)が、人口が少ない自治体では、幸福度が大きく分散していることが分かる。実は、地方で幸福の格差が広がっている可能性があるのだ。

自治体別幸福度と自治体人口
自治体別幸福度と自治体人口
※自治体の国勢調査人口の単位は「万人」

 この結果を見れば、人口が少ない自治体の幸福の格差を小さくしていく、住民の幸福度を上げていく、ということが、地方創生の大きな目標の一つになる可能性が見えてくる。そして、幸福度を上げていくことを考えるのであれば、幸福度の構造を解明することが必要になる。

 連載でも何回か取り上げた筆者の2018年の論文「住まいが主観的幸福度に与える影響」では、幸福度に対して地域の居住満足度や建物に対する満足度の影響が有意にあり、それ以上に家族関係の満足度や健康・食生活の満足度といった個人によって大きく異なる要素の影響が大きいことが示されているが、地域差についての分析は行っていない。

 そのため、最新の住みここちランキングの個票データを用いて分析を行ったところ、以下のような興味深い結果が得られた。

  1. 20歳代の幸福度が最も高いが、30歳以上になると幸福度の年齢差はほとんどない。
  2. 女性のほうが(偏回帰係数:0.365)、結婚したほうが(同:0.595)、子どもがいたほうが(同:0.206)、幸福度が高い。
  3. 家族関係の満足度が高いと幸福度が高まり(同:0.456)、仕事への満足度が高いと幸福度が高まる(同:0.173)。
  4. 居住満足度関連では、生活利便性や交通利便性の影響はかなり小さいが、親しみやすさが高いと幸福度が高まり、その効果は5万人未満の自治体で顕著に高い(同:0.118)。
  5. 居住建物に対する満足度は「親しみやすさ因子」よりさらに幸福度への効果が大きい(同:0.242)。
  6. 居住自治体の幸福度平均が高いと(周りの人の幸福度が高いと)、幸福度が高まる(同:0.619)。
  7. 自分が社会の上流だと思うと幸福度は高まり(同:0.118)、下流だと思うと幸福度が下がり(同:-0.181)、劣等感があると幸福度が下がる(同:-0.146)。
  8. 世帯年収の多寡は、幸福度にほとんど影響を及ぼさない。
  9. 人口密度や人口増加率は、幸福度にほとんど影響を及ぼさない。
  10. 街に誇りを持っている、街への愛着がある、街に貢献したいと思うといったいわゆるシビックプライドに関連する項目と多文化共生や多様性に対する意識は、幸福度にほとんど影響を及ぼさない。

※偏回帰係数とは多変量解析で使われる用語で、絶対値は幸福度に対する影響の大きさを、正負の符号はプラスなら幸福度を上げ、マイナスなら幸福度を下げることを示す。

 以上のように、幸福度に影響するのは家族関係や階層意識など個々人の内的な要因によるものが大きく、外的な要因には「親しみやすさ因子」くらいしかないという、興味深い結果となっている。

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