前回の記事で、東京23区の新築マンションの平均価格がバブル期を超えた理由の1つとして、東京23区には世帯年収が1000万円を超え、夫婦両方が大卒以上で正社員の共働き夫婦が多いことを挙げた。東京23区だけではなく首都圏には大企業が多く高い年収が得られる仕事も多いが、なぜ23区にそうしたパワーカップルが集中しているのだろうか。そこには、「人は似たもの同士が集まるようになっている」という社会的習性がある。今回は首都圏を中心に、居住者の属性が地域によってどのように違うのか、それが不動産価格等にどのように影響しているのかを考えてみたい。

企業組織を中心として、世の中では多様性(ダイバーシティ)が非常に重視されるようになっている。経営学の分野でも人材の多様性は業績を向上させる、といった研究成果が見られ、女性管理職比率、女性役員比率が経営指標として提示されることもある。また、街づくりでも多様な人々が暮らし、新しい価値を生み出す活力のある街が理想とされていることも多い。
しかし、こうしたダイバーシティには、新しいあるべき社会規範である、というある種の理想論的な思想の傾向があるようにも思える。
東京を中心とする首都圏は、多様な人々が暮らす、間違いなくダイバーシティな街であり、コロナ禍においても人が集まり続けている。実際、大手町のオフィス街には多様な人種の様々な職種の人たちが働き、新宿周辺は多国籍なにぎわいのある繁華街を形成し、男女の違いやLBGT(性的少数者)に関する寛容性・受容性も格段に高まっている。
しかし、そうした人たちがどこに住んでいるのか、ということを注意深く見ていくと、実は住まいの観点ではダイバーシティは進んでいない。多様な人々が交ざり合って暮らしているというわけではなく、むしろ分断が進んでいることが分かる。世の中全体でのダイバーシティへの意識は高まっているとしても、身近な生活の範囲では様相が異なる。心理学で類似性の法則と呼ばれる、自分と似た人に好感を持ちやすいという心理効果が働き、意識的ではないとしても、人は、自分と同じような人が住んでいる場所を選択する傾向があるのだ。
所得の違いが居住地を分断し始めている
街にはその街ごとの雰囲気というものがあり、いつもと違う場所に行くと自分の住んでいる場所との違いを感じることがあるだろう。
そうした地域の雰囲気は、住んでいる人たちによって決まってくる。そこには個々人の学歴や職業、年収といった様々な要素が関係している。ただ、日本は欧米と比べて属性の違いを実感することが難しいかもしれない。欧米の場合は人種が多様で、富裕層はクルマを利用するのに対して低所得者層ではバスの利用が多い傾向があるなど、差が顕著に表れる。しかし日本は人種が比較的似通い、治安も良いことから所得によって利用する交通機関が違うといったことはない。
そうした見えにくい地域の居住者属性の違いを可視化しようと試みたのが、筆者の2018年の論文「富裕層および団地の集積が家賃に与える影響」だ。1都3県の中心部で所得の高い世帯が居住している地域をグレーで表したのが、下のマップである。
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