連載の4回目で書いた「持ち家VS賃貸」の記事には、投票数が約800、コメント投稿が約80件あり、多くの人に関心を持ってもらえたようだ。「持ち家は自分を顧客とした最も確実性の高い賃貸事業」とした筆者の結論に対し、投票の約7割が「参考になった」とする一方、コメント投稿には否定的なものが非常に多かった。筆者の想定通り、この論争は意見が二分される性質のものだ。今回は、筆者が企画・設計・分析を行っている「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」の回答結果を基に、どういった属性の人たちが持ち家に否定的なのかを分析してみた。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 連載の4回目では、2018年の住宅・土地統計調査(以下「住調」という)によれば年齢の上昇とともに持ち家率が上がっていくこと、また、国立社会保障・人口問題研究所の2016年の第8回人口移動調査から、引っ越しをする人の割合は年齢が高くなると急激に減少し、45歳以上では年率4%未満になることを紹介した。つまり世の中の人々の多くは持ち家を選択している。その点で「持ち家派」の勝利であり、「持ち家とは自分自身を顧客とした最も確実性の高い賃貸事業である」と結論付けた。

 しかし、少数であっても持ち家ではなく賃貸を選択する人はおり、記事に対するコメント投稿では、賃貸を推す内容が目立った。そこで今回は、筆者が企画・設計・分析を行っている「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」の個票データ(以下「住みここちデータ」という)を用いて、もう一度、持ち家・賃貸論争について考えてみたい。

 住みここちデータには、「家を持つべきだ」に対して、そう思う・どちらかといえばそう思う・どちらでもない・どちらかといえばそうは思わない・そうは思わない、という5つの選択肢から回答する設問がある。日本全国を対象とした2020年と2021年の2回の調査で合計37万4813名から回答を得ており、集計結果は以下の通りである。

[家を持つべきだ]への回答と持ち家、非持ち家の集計
[家を持つべきだ]への回答と持ち家、非持ち家の集計
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  • 「家を持つべきだ」に対して、そう思う・どちらかといえばそう思うという肯定派(上の表ではYes)は、44.5%と半数弱を占め、そのうち58.8%は実際に持ち家に居住している。
  • 「家を持つべきだ」に対して、そうは思わない・どちらかといえばそうは思わないという否定派(上の表ではNo)は、15.0%と少数派であり、そのうち29.5%は、意向に反して持ち家に居住している。
  • 「家を持つべきだ」に対して、どちらでもないという未定派(上の表ではNeither)は40.5%とかなりのボリュームがあり、持ち家に居住しているのは半数弱の46.4%となっている。

 ここから分かるのは、意向として「家を持つべきだ」と考えている人が44.5%と多数を占め、次いで家を持つべきかどうか明確な考えがない人も40.5%とかなりのボリュームがあり、否定的な意向を持つ人は15%と少ないということだ。「家を持つべきだ」という考えに対して否定的な意向を持っているにもかかわらず持ち家に住んでいる人が3割弱いるのも興味深い。その結果、持ち家に否定的で、かつ実際に持ち家ではない居住形態を行動として選択しているのは、全体の10.6%とかなりの少数派になっている。

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