2022年の4月からNHKで『正直不動産』という不動産業界の闇を描いたドラマが放映された。業界をよく知るものとしてはかなり誇張があると感じた一方で、すべてを否定できないことに困惑した。番組で取り上げられた問題の一つに、不動産仲介会社が、集客のために実際には存在しないが魅力的に見える物件を広告する、いわゆる「おとり物件」がある。近年はあからさまなおとり物件はほぼ根絶されているが、問い合わせをした物件を目当てに不動産会社を訪問すると、「その物件はもうありません」と言われることがいまだにあるようだ。そこには不動産業界の旧態依然とした構図が深く関わっている。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 筆者は2大不動産情報サイトに掲載されている東京都の賃貸物件数を確認してみた。2022年8月17日時点で、「SUUMO」に152万1532戸、「LIFULL HOME'S」(以下、HOME'S)が22万7906棟であった(SUUMOは戸数、HOME'Sは棟数であることに注意)。一方、2018年の住宅・土地統計調査では東京都の民営借家は330万2700戸であり、そのうち空室は57万9000戸(空き家率17.5%)となっている。これは恐らく今もそれほど変わっていないだろう。

 空き家率は、本連載の2回目「『都内の空き家率10%』は本当か 調査の実態とは」で解説したように過大に推計されている可能性が高い。そう考えると、SUUMOの東京都の掲載物件数が150万戸を超えているというのはいかにも多い。

 そのカラクリは、掲載されている物件を詳細に確認していくと分かる。実は同じ物件が違う不動産会社から掲載されており、賃貸広告物件が重複しているのである。重複数は正確には把握されていないが、人気のある場所では同じ物件が6~7の不動産会社によって掲載されていることもある。

 こうした物件掲載はIT化が進んだとはいえ、実はまだ手作業に頼っている部分が多い。掲載した物件が成約したら掲載を自動的に停止する仕組みは整っていない。物件があるかどうかを確実に知るには、「元付け」と呼ばれるその物件を管理している不動産会社に問い合わせるしかなく、空室状況をリアルタイムで知るには電話をするのが一番確実、というアナログな世界が残っている。つまり、物件を掲載している不動産会社自身、その物件が本当にあるのかどうか分かっていないことが多いのが実情だ。

不動産業界には実質的なペナルティーがない

 ホテルや交通機関の予約でダブルブッキングは大問題であり、旅行業界ではすべての空き状況をリアルタイムで共有する仕組みが確立されている。不動産業界も同じようにすれば問題は解決するのだが、そこには高いハードルがある。

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