筆者は大東建託賃貸未来研究所長として毎年「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」を発表している。ランキング上位の街について最も好まれる説明は「子育て環境の充実」だ。それが一番納得しやすく、メディアの視聴者・読者からも求められていることなのだろう。自治体は子育て世帯を呼び込もうと、子育て支援策を充実させている。しかし、子育て支援策が充実しているからといって、本当に子育てに向いている街と言えるのだろうか。今回はこのことを考えてみたい。

日本全体の人口が減少するなか、多くの自治体が人口獲得競争に乗り出している。その主戦場は「子育て世帯」だ。
子育て世帯から支持されている自治体としては、東の流山市(千葉県)、西の明石市(兵庫県)が有名だ。流山市には駅前からバスで市内各所の保育園まで送迎してくれるシステムがあり、幼稚園と保育園の連携や小中学校の連携教育、子育て支援センターの設置など様々な政策が実行されている。一方、明石市も、高校3年生までの医療費無料化、第2子以降の保育料の完全無料化、0歳児の見守り訪問「おむつ定期便」、中学校給食費の無償化、公共施設の入場料無料化などを実行している。同市のウェブサイトには「明石市の子育て支援はまだまだお得!」との文言があり、経済的な側面を強調している。
自治体の子育て政策が、保育環境の整備や経済的支援を中心にしている背景には、子育て世帯の多くが経済的な不安を抱えていることがある。文部科学省の委託調査である令和2年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究 ~家庭教育支援の充実に向けた保護者の意識に関する実態把握調査~」では、32.7%が「子育てをする上で経済的に厳しい」ことを悩みや不安の内容として挙げており、子育てをしていて負担に感じることとして「経済的な負担」が49.1%を占めている。
だが、子育ての目標はそのコストと手間を最小化することではない。そう考えると、子育て支援策の充実は、子育て世帯にとって本質的な問題なのだろうか。
親は、子どもに幸せになってほしい
リクルート進学総研の「第10回高校生と保護者の進路に関する意識調査2021」によると、保護者の66%が大学・短大・専門学校などへ進学することを希望しており、子どもの将来について気がかりなこととしては、「就きたい職業に就くことができるだろうか」が78%と最も高く、「就きたい職業が思いつくだろうか」が48%、「職場の人間関係がうまくいくだろうか」が45%、「十分な収入が得られるかどうか」が33%などとなっている。
また、子どもに就いてほしい職業の調査が話題になることもあるが、先ほど紹介したリクルート進学総研の調査によると、将来子どもに就いてほしい職業があると回答した保護者は14%にすぎない。そして77%は「子どもが希望する職業なら何でも良い」と回答している。
子育ての目標を簡単には定義できないだろうが、子どもにどうなってほしいかという親の願いは、「大学を出て、やりたい仕事に就き、周りとうまくやりながら経済的にも安定した生活を送ってほしい」というところだろう。最近はAI(人工知能)の台頭などもあり、「大学へ行く意味はない」「暗記は不要」「学力と社会的成功は一致しない」という言説が語られることが増えたが、そういった考え方が一般化しているとはいえない。根拠なく個人的な経験を安易に一般化したECF(Extreme Case Formulation:極端な事例による構成)だと筆者は考えている。
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