もはや日本の不動産は「負動産」である、という指摘がある。しかし、売ることも貸すこともできず、固定資産税や管理の負担が続く「負動産」は一部の限られた人口減少地域での話であり、それが一気に全国へ広まるわけではない。にもかかわらず、子どもの相続時の負担を考えて、動ける間に高齢者向け賃貸住宅などに移り住み、持ち家を処分しておいたほうがよいという言説があるのはなぜだろうか。今回は、持ち家を子どもに残すべきか否かについて考えてみたい。

(写真:PIXTA)
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 厚生労働省の令和3年(2021年)人口動態調査によれば、死亡者数は143万9809人と前年よりも増加した。そのうち85歳以上が50.3%、70歳以上が86.4%を占める。亡くなっているのは40~50歳代の親世代、20~30歳代から見れば祖父母世代である。一方の出生数は、死亡数の6割弱の81万1604人にとどまる。つまり1年間で約63万人の人口減少であり、これは鳥取県の全人口約55万人よりも多い。

 そのため、地方や郊外では本格的な家余り時代がくる可能性が高く、高齢者世代が子どもたちに持ち家を残すべきか、残さざるべきかが議論になっている。子どもの相続時の負担を考えて、動ける間に高齢者向け賃貸住宅などに移り住み、持ち家を処分しておいたほうがよいという言説もある。

 結論からいえば、そもそもの問いが間違っていると筆者は考える。家を残すべきかどうかの議論にはあまり意味はない。結果的に残った家をどうするかという問題があるだけなのだ。

家は残すためではなく、住むためにある

 持ち家か賃貸かの議論でも、持ち家は資産として有利か不利かという経済合理性の視点で語られることが多い。同様に、持ち家を残すべきか、残さざるべきかという議論も、資産性や相続時の手間が議論の中心になっている。そのため、自分が死んだあとの自宅が売るに売れず、貸そうにも借りてくれる人が見つからず、固定資産税や管理の負担を子どもにかけるくらいなら処分してしまったほうがよいと考える人がいても不思議ではない。

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