近年、世界的に主観的幸福度への関心が高まっており、日本でも幸福度の研究が行われるようになってきた。前回は、筆者の過去の研究を基に、幸福度の2割が建物や地域という住まいによって構成されていることを紹介した。今回は、幸福度をもたらす建物や地域への満足度とはどのような構造になっているのか、そもそも幸せとはどのような構造で生み出されているのかを考えたい。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 筆者の2018年の論文「住まいが主観的幸福度に与える影響」では、首都圏の1都3県に在住する1万2608人から回答を得たアンケートデータを基に、幸福度の14.7%が地域、8.1%が建物の要素で構成されていることを紹介した。2つを合わせると、実に2割強が住まいに関連している。

 前々回の記事では、満足度が高い地域について考察した。密なコミュニティーではなく、住宅供給が一定規模で行われていて、新たな住民が一定規模で流入してきて、それを旧来の住民が受け入れる、ということが大切だということである。

 では、建物はどうだろうか。分析結果としては、戸建ての評価が最も高く、マンション、アパートと続き、築年数が25年を超えると評価が大きく下がる。その割に、住民の年齢が65歳を超えると建物への評価は高くなる。スペックでいうと、広さ・部屋数、設備は満足度に大きく影響するが、耐久性や遮音性、耐震性といったハードとしての性能はあまり満足度に影響しない。一方で、外観のデザインや壁紙や床などの内装はハードよりもはるかに満足度に与える影響が大きい。

 簡単に言えば、広くて設備が最新で、見た目の良い建物の評価が高く、建物のハードとしての性能は満足度にはあまり関係ない、ということになる。これは、1981年の建築基準法改正による新耐震基準から40年が経過し、1995年の阪神大震災をきっかけに2000年にも耐震基準が改定された結果、現在では、耐震性だけではなく、サッシの性能向上等も併せて、建物は既に十分な品質だと人々が感じている、ということでもある。それだけ、実は、住宅業界の努力によって日本の住宅は進歩しているのである。

 そして、大変興味深いのは、建物への満足度に対して、地域への満足度がかなり大きな影響を与える、という結果が出ていることである。また、逆に地域への満足度に対しても、建物への満足度が影響を与えている。地域への満足度と建物への満足度は相互に影響しあっていることになる。

 これは、全く同じ建物であっても、より気に入った地域にあれば建物への満足度が上がり、同じ地域にあっても、より気に入った建物であればその地域への満足度が上がるということである。

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