新型コロナによる最初の緊急事態宣言から1年以上が経過してなお収束は見通せていない。コロナ禍が不動産に与える影響として、テレワークの定着で地方や郊外の人気が高まっているといわれている。実際に東京都の人口が減少に転じたという報道もあった。しかし、筆者が企画・設計・分析を行い、毎年発表している「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」では、2021年も上位の顔ぶれは変化がなかった。むしろ、自分が住んでいる街の良さを再評価する動きが見られ、人口の流動性が高まっているとは考えにくい。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 2月に不動産情報サイトを運営するLIFULLが発表した「LIFULL HOME’S住みたい街ランキング」で、ある変化が注目を集めた。賃貸部門の1位に本厚木駅(神奈川県厚木市)、2位に大宮駅(さいたま市大宮区)がランクインしたからだ。どちらも20年と比べて順位を3つ上げており、テレワークの普及で郊外の人気が高まっているという分析がなされている。

 しかし、筆者が企画・設計・分析を行い、5月19日に発表した「いい部屋ネット 街の住みここちランキング2021<首都圏版>」では、特に郊外の人気が大きく高まったとか、上位ランキングが大きく変動した、といった結果は得られなかった。

 この調査はその街に住む人に居住満足度を答えてもらうもので、21年は3月17日から同30日にかけて、6万2278人から回答を得た。首都圏版の上位ランキングは以下のようになっている(カッコ内は前年の順位)。

・住みここち・駅
1位:みなとみらい(順位なし)
2位:築地新富町エリア(2位)
3位:世田谷代田(3位)
4位:広尾(4位)
5位:表参道(10位)

・住みここち・自治体
1位:中央区(1位)
2位:文京区(2位)
3位:港区(6位)
4位:目黒区(3位)
5位:渋谷区(4位)

・住みたい駅
1位:吉祥寺(1位)
2位:横浜(2位)
3位:鎌倉(5位)
4位:みなとみらい(4位)
5位:大宮(9位)

・住みたい自治体
1位:港区(1位)
2位:世田谷区(2位)
3位:武蔵野市(5位)
4位:目黒区(6位)
5位:渋谷区(3位)

 どのランキングでも、前年のトップ10圏外から上位に入った街はなく、大きな変化はなかったと言える。少し目立つのは、住みここち自治体ランキング10位のさいたま市浦和区(前年14位)と、住みたい駅ランキング5位の大宮(前年9位)くらいだろう。しかし、この程度の変動をもって、郊外や埼玉県の人気が高まったとは言えない。

 なお、住みここち駅1位となったみなとみらいの前年順位がないのは、このランキングでは、回答者30名以上の駅を集計対象としており、前年は回答者が30名未満だったためである。そもそも、みなとみらいにはタワーマンションしかなく、極めて均質性の高い属性の人々だけが住んでいる特殊な場所でもある。また、住みたい駅の4位にみなとみらいがランクインしているのは、外部から見た「横浜」というイメージのかなりの部分が「みなとみらい」だということを強く示唆している。

 街の住みここちランキングは2019年から発表しており、回答者数は2019年3万7718人、2020年6万5306人、2021年6万2278人と十分なサンプルサイズを確保している。住みここちランキングを年度ごとに集計してみても、郊外の評価が2021年度に大きく上がっているということもない。

 政治的な世論調査のようなワンイシューを問う調査では、全国数千人のサンプルサイズでも統計的に一定程度の精度が確保できるが、こうした地域に関する調査では、サンプルサイズが重要になる。

 例えば、東京都世田谷区の人口は約94万人と、都道府県別で最も人口が少ない鳥取県の約55万人の1.7倍あり、区内のエリアによる違いもあって数百人程度のサンプルサイズでは誤差が大きくなる。時々話題になる、人気の都道府県といったランキングで毎年大きく順位が変動するのは、そもそものサンプルサイズが足りない可能性が高いのである。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1845文字 / 全文3497文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「データで解き明かす不動産の真実」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。