新型コロナウイルス禍により東京からの人口流出が少しずつ増加し、東京一極集中が解消されるかもしれない、という期待を持つ人は多いようだ。東京からの人口流出が増加している要因として、テレワークの浸透や東京の住みにくさに気づいた人が郊外や地方に移住していることを挙げる言説もある。しかし年度単位で見れば東京の人口が減った事実はない。それどころか、足元では一極集中が再び強まっている。

4月26日に、2022年3月の住民基本台帳人口移動報告が発表された。東京都の転入超過数は3万3171人で、前年同月比119%、新型コロナウイルス禍が本格化する直前の2020年3月と比べても82.5%の水準まで回復している。
コロナ禍になってからのこの1~2年、東京の人口が減少したというニュースに接する機会が多かった。最近でも、東京の暮らしにくさを強調し、東京から地方に脱出する流れが加速するだろう、という記事を見かける。
しかし、2022年1月から東京都の人口は転入超過、すなわちプラスに転じている。この回復傾向は今後も継続していく可能性が高い。東京一極集中が再び強まっていると筆者はみている。背景にあるのは、新型コロナに対する人々の意識の変化だ。
人々の意識は変わり始めている
筆者が所属する大東建託賃貸未来研究所が2022年3月に行った「6回目となる新型コロナウイルスによる意識変化調査」では、人々の意識が変わり始めている傾向が見て取れる。
2021年9月までは85%程度で安定していた「コロナの収束には数年かかると思う」という回答が81.0%に低下し、「コロナで社会は大きく変わると思う」という回答も2020年6月に78.1%あったものが68.4%へと低下した。
不動産市場に対する見方も、「これから家賃は下がると思う」という回答が2020年6月の55.2%から35.0%へと大きく低下し、「これから不動産価格は下がると思う」という回答も同じく69.5%から47.1%に大きく低下している。
「コロナのことを考えると通勤はストレスである」という回答は47.0%、「コロナをきっかけに通勤時間は短いほうが良いと思うようになった」という回答も80.0%あったが、全体としてはコロナ禍以前の意識へと戻り始めている印象だ。
実際、感染に対する危機意識は大きく低下している。NHKの特設サイトによると、最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月の東京都の新型コロナ感染者数は累計で3748人だったが、2022年4月の感染者数は18万8112人、1日当たりの平均感染者数は6270人と当時の約50倍に激増している。それにもかかわらず、緊急事態宣言が発出される気配はなく、ゴールデンウイークで高速道路は渋滞し、新幹線や飛行機は予約で埋まった。人々の意識がコロナ禍以前と完全に同じに戻ることはないだろうが、ウィズコロナへと変わりつつあるのは間違いない。
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