LICCでは、「月末の支払期限に対して翌月20日までに支払いがなかったもの」が滞納として扱われる。そのため、月末の口座振替時に残高が足りずに引き落としができなかった場合でも、未払いの連絡を受けてすぐに支払ったケースは滞納としてカウントされない。そのため、月初時点の家賃滞納率はもっと高い。

 そして、累計の滞納家賃総額の半分以上は0.5%程度しかいない7カ月以上の滞納者によるものであり、1%弱しかいない4カ月以上の滞納者(ここには7カ月以上の滞納者も含んでいる)によるものが全体の7割程度を占めることが明らかになっている。つまり家賃滞納の問題というのは、全体の1%にも満たないごく限られた滞納者によって引き起こされているのである。そして、こうした滞納者のことを反復継続的家賃滞納者という。

 反復継続的家賃滞納者に対しては、任意での退去ではなく裁判所の判決に従った強制執行となることも多い。建物の明け渡しを求める裁判では、強制執行まで数カ月の期間と、数十万円から場合によっては100万円を超える弁護士費用と執行費用などがかかり、家主の心理的負担も大きい。そして、そうしたコストは、「滞納しない賃貸居住者」が支払う保証料と、「滞納とは無縁の持ち家居住者」も負担している税金によって賄われているのだ。

家賃滞納の原因はお金だけではない

 では、どうして家賃滞納が起こるのだろうか。軽微な支払い遅れと、最終的に退去につながるような深刻な滞納とでは、発生する原因が違うことが分かっている。

 筆者の2015年の論文「民間賃貸住宅の家賃滞納に家賃・敷金・契約者属性等が及ぼす影響」では、2カ月滞納した場合の1年後の継続入居率は55.2%と半数を超えているが、3カ月滞納になると1年後の継続入居率は38.8%と大きく下がる。このことは、建物明け渡し訴訟において、3カ月以上の家賃滞納をもって信頼関係が破壊されたと見なされ、賃貸借契約の解除が認められるケースが多いこととも一致している。

 この論文では、家賃滞納が起きる全体の確率ではなく、3カ月以上の家賃滞納が起きる確率に絞って分析を行った。その結果、年収200万~300万円程度の場合と、職業がパート・アルバイトの場合に家賃滞納率がやや高くなっていることが分かった。しかし同時に、家賃の年収に占める比率が30%を超えても滞納確率は上がらないこと、60歳以上の滞納率は低いこと、外国人の滞納率も低いことが示された。

 高齢者や外国人に家を貸したがらない家主は少なくないが、「家賃を滞納するから」という理由を説明するデータの裏付けはないことを示している。同様に、「家賃は年収の3割以下に抑えるべきだ」という意見にも支払いに関して言えばデータの裏付けがないことになる。

 だとすれば、家賃滞納は個々人の思考や行動様式に左右されるのではないか。そう考えて筆者は2017年に「行動・思考様式が家賃滞納に与える影響」という論文をまとめた。個々人の性格因子を用いた分析を行った結果、家賃滞納と「いい加減因子」とは正の関係、「リスク回避因子」とは負の関係にあることが分かった。そして「人間関係因子」が弱いと安定した仕事に就けないことにつながり、「やる気因子」が高いことが貯蓄につながることが分かった。