連載の4回目5回目で「持ち家VS賃貸論争」を取り上げたところ、読者から多くのコメントが寄せられた。「社会の先行きが見通せない中、住宅ローンの返済よりも家賃を支払うほうがリスクが少ない」という意見もあった。
 実は家賃滞納に関する公的統計データは取られていない。ただ、筆者は以前、家賃債務保証会社の経営に携わっており、滞納家賃の代位弁済情報を管理する業界団体の設立にも関わった経験を持つ。
 そこで今回は、一般にはあまり知られていない家賃滞納の実態について紹介したい。家賃滞納による社会的コストは税金などで負担されている。“持ち家派”の読者にとっても無関係とは言えず、社会課題として知っておいていただきたい内容だ。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 家賃滞納問題については、「個々人のお金の問題は自己責任だ」という主張もあれば、「誰にでも起きる可能性がある普遍的なリスクであるから、社会制度としてのセーフティーネットを拡充すべきだ」という指摘もある。筆者の研究成果からは「家賃滞納が自己責任とは言い切れないこと」が見えており、社会の責任として住まいが安定して確保されることが、家賃滞納を起こさない人にとっても好ましい状態をもたらすと考えている。

 この連載は公的な統計データをもとに実態を読み解くことをテーマにしているが、実は家賃滞納に関しては公的な統計は存在していない。そのため、実態はあまり研究されてこなかった。そもそも、家賃滞納がどのくらいの頻度で発生するかが明らかではなく、誰にでも起きうる普遍的な問題なのか、特定の場合に発生する問題なのかもよく分かっていなかった。

 筆者は2006年から2012年まで家賃債務保証会社の経営に携わっていた。そのときの感覚としては、「1回だけ1日遅れた」といった軽微なものを含めて、なんらかの家賃の支払い遅れの経験がある人の割合は3~4割に上っていたと思う。

 多いように思えるかもしれないが、当時はまだ銀行振り込みによる支払いも多く、中には家主に直接現金で支払うという前時代的な支払い方法も残っていた。

 現在では家賃支払いの多くは口座引き落としとなっており、家賃の振り込みをうっかり忘れることは少なくなった。それでも口座残高の管理ミスによる引き落としエラーは少なからず存在している。

 公的統計データはないが、一般社団法人全国賃貸保証業協会(Leasing Information Communicate Center:以下LICC)にはかなりのデータが蓄積されている。この組織は、家賃債務保証事業者が代位弁済情報データベースを運営するために設立した団体で、筆者は設立時に理事として関与した。

 LICCのデータを使った筆者の2014年の論文「民間賃貸住宅における家賃滞納の定量分析」では、滞納率は3.5%程度であることが示されている。そして、4カ月以上の滞納率は1%弱、7カ月以上の滞納率は0.5%程度である。

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